第6章 雪山に轟く
その後も数度魔物の群れに遭遇しながらも予定より早くブルム集落に到着した。空は徐々に暗くなり、集落を覆う堀の周りの松明が消え始めた。松明を消している門番らしき人に話しかける。
「こんばんは。ブルム集落の方ですか?」
「ああ、そうだが。お前たちは?」
「魔導士ギルドの妖精の尻尾の者です。」
私は左鎖骨のラクサスも左胸の下にあるギルドマークを見せながら言う。
「ああ!君たちがそうなのか。予定よりも早い到着だったな。遠路はるばるよく来てくれた!入ってくれ。」
「お邪魔します。」
真新しい重厚そうな木の門がガリガリと地面を擦りながらゆっくり開く。集落の中は思っていたよりも活気があって、開店の準備を始めている居酒屋や子供たちがはしゃぎながら各自の家へと入っていくのが見えた。
「集落の長の所へご案内します。」
「お願いします。」
そうして案内人らしき女性の後について行き、ある一軒家に辿り着いた。
「長は中におります。お話が終わりましたらこの宿でお休みください。」
「ありがとうございます。」
女性から宿屋の場所と名前を記してあるメモを受け取って軽く会釈して別れる。ラクサスはと言うととっくにドアを開けて中に入ろうとしている所だった。
「待ってよ。」
「もたもたすんな。」
中に入るとふわりとラベンダーの匂いがした。よく見ると至る所にラベンダーの加工品が整然と並んでいて、奥にいる年老いた男性もなにやらラベンダーを加工している最中だった。ドアが閉まった音に反応してこちらに目線を寄越す。
「やぁ、よく来てくれたね。ラクサス君。」
「久しぶりだな、ウバリさん。」
「そちらのお嬢さんは?」
「同じギルドのモンだ。」
「クレアです。」
「おや、恋人じゃないのかね?」
「…そうだ。」
「はっはっはっ…照れているラクサス君を見られるなんてな。」
「話を進めろ。」
この老人はなかなか頭が切れるようだ、というのが第一印象だった。揶揄う様に細められた双眸は全てを見通すように鋭い。どうやらこの集落を長年まとめ上げてきただけあるようだ。