第1章 喧騒
「侵入者だ。じきにゼレフが目覚めるというのに。クレア、排除しろ。」
「了解しました。」
この移動式要塞に侵入者だなんて。しかも闇ギルドの本拠地に、だ。薄暗い廊下をヒールを鳴らしながら歩いているとその先に凍てつく空気を纏う男がいた。もう死んでいるが。
「よう、クレア。お前も駆り出されたのか?」
「ええ。貴方達九鬼門も駆り出されるなんて一体どんな侵入者なの?」
「妖精の尻尾の連中だ。冥府の門に直接乗り込んでくるような馬鹿どもはあいつらしかいねぇだろ。」
自分のギルドが攻撃されている最中なのにさぞ面白そうに嗤う。つくづく理解できない男だ。
「妖精の尻尾…。よほどの馬鹿たちの集まりみたいね。バラム同盟の2柱を崩したと良い気になってるのかしら。」
「どうした。やけに攻撃的じゃねぇか。前に任務を邪魔されたとかそういうクチか?」
「まさか。大きな計画を前にして気が立ってるのかもね。それにしても、今日はなかなか遊べそうじゃないの?お互いに。」
「まぁな、お前も死なねぇ程度に頑張れや。」
「死なない人はいいわね、気楽で。ああ、それとも二度は死ねないと言うべきだったかしら。」
「ハハッ、違ぇねぇ。」
仲間や部下が傷ついている中でこんな軽口を叩けるのなら、私も彼とそう変わらないのかもしれない。妖精の尻尾の名を聞いたときに心臓がドクリと嫌な音を立てたことは気付かれなかったようで良かった。今更誰が敵であろうとも、私のするべきことは変わらない。一瞬だけ心のどこかに浮かんだ眩しくて不器用な人の記憶を消し去ると私は部下の待つ部屋へと歩を進めた。