第20章 待つのは思っていたよりも
「その手、離してもらえますか」
綺麗に髪を束ねた彼がゆっくりと近づき、私の目を見て優しく微笑む
「おかえり、めぐ」
「え、あ、なんで・・っ?!」
「早く顔が見たくて迎えに来た」
来て正解だったろ、そう言って私の肩を引き寄せた彼が冷たい声で言葉を放つ
「妻が世話になりましたね、どうも」
「貴方が、ご主人ですか、
想像していた雰囲気とは少し違いました」
「それ、褒め言葉として受け取っておきます」
見覚えのあるような、と続いた言葉を無視した彼は私の背中に手を添えると「帰るぞ、」と呟いた
「・・薬師さん、また」
「で、では、」
ぎこちなく会釈する私を横目に、荷物を持ち上げ隣を歩き出した彼は後ろを振り返る
「・・ああ、ひとつ言い忘れました」
次からは”相澤さん”でお願いしますよ、そう言って彼は私の左手を持ち上げるとそのまま指を絡めて
「ちょ、ちょっと!」
大胆な行動に驚き思わず手を離すと、微笑んだ彼は優しく私の髪を梳いた
「随分と見せつけてくれるんですね」
「失礼、新婚なもんで」
穏やかな物言いとは異なり、その表情はとても挑発的で落ち着かない
「・・羨ましいです」
「そうでしょうね」
一秒たりとも離れたくないんですよ、そう言って彼は私の手を引きロビーを後にした
「っふふ!あはははは!!」
「どォーーーよ!?十五年あっためた渾っ身の
モノマネ!!!」
「もう!すっごくはらはらしたんだから!」
高速を走る車内、満足気な山田くんが先ほどと同じ台詞を言ってみせる
「・・早く顔が見たくて迎えにきた
本物の旦那サマはめぐの顔が見たすぎて泥酔!
今頃くたばってるよHAHAHA!」
「ふふ、わざわざありがとう」
「手握ったのは内密に頼むぜ?オレ殺されるから!」
それとこれとは別だ、お前殺す、
とか言いそうでしょアイツ!とまた山田くんが声真似をして笑いが止まらなくなる
「でもオレで良かっただろ?
アイツが来たらあの男無傷じゃ済まないって!」
手掴まれてんのなんて見たら大ゴトよ?!
そう言って山田くんが楽しそうに笑った
「代わりに牽制してあげちゃうなんて、
オレってばホントにいいダチだよなァ!」