第20章 待つのは思っていたよりも
無事に研究発表会と祝賀会を終え、予定していた飛行機を早める
もう一泊して明日の朝帰る予定だったけれど
今晩中に彼の顔が見たくて、すぐに乗れる飛行機を押さえた
少しでも早く帰ったら、喜んでくれるかな
搭乗直前、電話をかけたけれど繋がらない
きっと今日も忙しいのだろう
帰りを一日早めたこと、そして最寄りの空港への到着時間をメッセージで知らせると
「気をつけてな」という一言と、普段絶対に使わないハートのスタンプが送られてきた
帰ったら色々問い詰められるだろうけど、その時間ですら愛おしくて楽しみな自分が居る
きっと少し怒った顔をして不機嫌に迎えてくれるのだろう
お留守番のお礼を言って機嫌を取って
明日の朝はコーヒーと一緒にお土産のお菓子を食べよう
一時間半ほどのフライト、そんなことを考えているうちにあっという間に見慣れた街に戻ってきた
結局たった二日間離れていただけ、
そう苦笑しつつ、歩く速度は自然と早まる
到着ゲートを出てタクシー乗り場を探すそんな私の背中を
少し緊張気味の声が引き止めた
「薬師、さん、」
振り返ると同時に心臓が嫌な音を立てる
話さなくて済むようにと
昨日も今日も上手く避けていた、その人だった
「先輩・・、お久しぶりです」
「そんなに警戒しないで欲しい、
明日この近くの病院で会合があるんだ」
「そう、なんですね」
同じ飛行機だったなんて運が悪すぎる、自然と顔が引き攣るのを感じて
「その指輪・・、結婚、したんだね」
相手は君がずっと想っていたあの彼かな、と
最後の日と同じように切なく揺れるその声に黙って頷いた
「迎えの車が来るんだ、遅いから送るよ」
「いえ、大丈夫です、失礼します」
そう言って立ち去ろうとした瞬間、強い力で手首を掴まれて
「・・あの時の事を謝りたい、少しだけ、
少しでいいから、話せないか」
「すみません、私、急いでいて」
掴まれている手が緊張で冷えていく、怖い
触らないで、離して、
そう言えばいいのに言えないのは、気持ちに応えられなかった罪悪感のせいなのだろうか
「じゃあせめて、タクシー乗り場まで」
一向に緩まない力に恐怖を感じ
それなら・・、と諦めて返事をしようとした時
人気の無いフロアによく知る声が響いた