第2章 余裕で跳べてしまうから
エレベーターに乗り、入寮案内に記載された階のボタンを押す
スーツケースを引き摺り辿り着いた部屋、見上げた表札には「薬師」と書かれていて
バタン、とドアを閉めた途端、全身の力が抜けへなへなと床に崩れ落ちた
相澤くんが雄英の先生だったなんて
まさかこんな形で再会する日がくるなんて
上手く話せていたかな、ほとんど目を合わせてくれなかったな
当然だよね、昔振った女が突然同僚になるなんて嫌だよね...
それでも寮まで送ってくれたのは、私が気まずい思いをしないようにという彼の変わらない優しさなんだろう
驚きと喜び、募らせていた想い
そして突き放される恐怖
すべてが溢れて爆発しそうだ
「明日から同僚・・」
確かにずっと会いたかったけれど、心の準備が全くできていない
深く吐いた溜息は暗いままの部屋に溶けて、備え付けの壁掛け時計の秒針がカチカチと音を立てた
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落ち着かない心のまま大方の荷解きを終えた午前0時すぎ、シャワーを浴びやっとベッドに潜り込む
「疲れただろ、早く休めよ」
耳に残るその声は、高校生の頃より低くなっている気がする
背も伸びた気がするし、髪も髭も昔とは少し違う、記憶の中の彼はまだあどけなさの残る学生だったのだと思い知ると心臓がまた大きな音を立てた
でも変わらないあの視線、あの表情
「・・眠れるわけ・・ない・・」
枕に顔を埋めて呟いた声、諦めて身体を起こすとバルコニーのドアへと手をかける
かちゃりと鍵を外し力を込めると、静かな夜の闇が優しく私を迎えた
金木犀の香りをゆっくりと吸い込むと、冷んやりとした夜風が頬を撫でて
広くはないけれど居心地のいい場所、少しずつ心が凪いでいく
「、涼しい」
秋の夜は気持ちがいいなぁ、そう思いっきり伸びをしたところで
真っ直ぐこちらに向けられている視線に気がついた
「え!? わああああっ!!!」
数十メートル離れた向かいの一室、男性職員棟のバルコニーだろうか
ひどく充血した目を見開いた相澤くんが派手にコーヒーをこぼしている
「え、なん、で・・っ!」
狼狽える私に彼は片手でスマホを見せると、それを耳に当てて
数秒後、今日事務室で貰ったばかりの業務用スマホが「イレイザーヘッド(相澤)」と映し出し机上で音を立てた