第2章 余裕で跳べてしまうから
彼女の言葉に、顔に熱が集まるのを感じる
「あとね、コーヒーの匂いがする」
「お前のせいだろうが」
一気に近づいた距離に
触れた柔らかな感触に
薄手の服越しに伝わる体温に
これ以上無いほど、心臓がバクバクと音を立てて
「相澤くん、もう、大丈夫だから・・」
壁際に迫られているこの状況をやっと認識した彼女の頬が染まっていく
急に恥ずかしがってんじゃねェよ・・
昼間は目すらまともに合わせられなかった、つい先ほどまでは電話越しだった
その彼女に今、触れている
冷静さを失いそうなのはこんな時間のせいか
それとも長時間労働による判断力の低下か
そんな風に俯瞰する自身の一方で
彼女をもっと追い詰めたいと、止まらない何かが急激に大きくなっていくのを感じる
今ここで
このまま強く抱きしめて
むちゃくちゃに口付けて
心からの謝罪と愛を口にしたら
君は再び
俺のものになってくれるだろうか————
「相澤くん、ど、したの、」
彼女の弱々しい手が、遠慮がちに俺の胸を押し返す
お前の顔が紅いことに
目を合わせず狼狽えるその姿に
少しは期待してもいいのだろうか
あと、数センチ
「悪いが、少し黙れ・・」
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
「1年A組ノ生徒2名 時間外活動確認
担任 オイ!イレイザーヘッド!
オタクノ生徒ガ マタ
グラウンドβニ居ルゾ
セキニン問題 叱ッテコイ!」
向かいの部屋から大音量で響いたのは、緊急事態を告げるアナウンス
「あいつら、縛り上げてやる・・!」
そう言って気まずそうに身体を離した彼は
最後にくしゃ、と私の頭を撫でた
「ちゃんと寝ろよ、おやすみ」
呆然と立ち尽くして、足が動かないまま彼の後ろ姿を見送る
心臓が壊れそうで、撫でられた頭がビリビリして、
な、なに今の・・!!!
—————
あの時呼び出しが鳴らなかったら
俺は一体、何をしようとした・・?
部屋に戻るなり冷たい水で顔を洗う
何考えてんだ、我ながらどうかしてるぞ
抱きしめた時に感じた彼女の温度
華奢な背中 柔らかな髪 懐かしい香り
思い出すだけで身体が熱くなる
クソ、どのみち今晩は寝られやしない
あいつらを縛り上げたら、朝まで反省会だ