第2章 余裕で跳べてしまうから
「——あ、相澤くん・・?」
「・・夜中に大声で話すわけにいかないだろ
連絡先が自動登録でよかったよ」
耳元で響いた低い声はやっぱり昔のものとは少し違って、凪いだ心を一瞬にして落ち着かなくさせる
お前の部屋そこなんだな、と向かいの人影がちょんちょんとこちらを指差した
「も、もう!びっくりして叫ぶとこだった!」
「叫んでないと思うか」
おかげでこれだ、呆れた表情の彼はそう言ってコーヒーまみれの服をこちらに見せた
「ごめんね、大丈夫?」
「見りゃわかるだろ、大丈夫じゃない」
迷惑そうに眉根を寄せた彼は首に掛けていたタオルで濡れた服をごしごしと拭いて、思わず笑いが止まらなくなった
「ふふ!ごめん、」
「まだ起きてたのか」
顔を顰めた相澤くんが、呆れたような声を響かせる
彼の発する音ひとつひとつが胸の奥をぎゅっと掴んで、私は涙が出そうになるのを必死に堪えた
「聞き方が先生みたい」
「先生だよ」
「・・なんだか、寝付けなくて」
「それでこんな時間にそんな恰好で外に出たと」
せめて上着ぐらい羽織れ、なんてぶつぶつ言っている彼は私の気持ちなんて全く気づいていないのだろう
「無防備にも程がある」
昔もよくこうやって怒られていたっけ
“だからあいつと二人になるなって言っただろ、無防備にも程がある”
付き合っていた頃と同じ言い回しに、心臓の音が更に騒がしくなって
動揺をどうにか悟られないようにと、私は慌てて言葉を繋いだ
「相澤くんこそ、こんなに遅くまで仕事してるの?そんなのドライアイにもなるよ、夜遅くまでパソコン見ちゃだめなんだからね?ちゃんとごはんは食べたの?健康管理は生活のキホン・・っ
「・・お前、焦るとめちゃくちゃ喋るのそのまんまだな」
健康オタクも健在か、そう言った彼があの頃と変わらない表情で笑うから、途端に息が上手く吸えなくなる
好きにならないなんて
ああ、やっぱり無理だ
「・・そんなに構えなくても、お前なら大丈夫だろ」
優しく発されたその声に鼻の奥がつんとして
思わず黙った私に彼は念を押すようにもう一度同じ言葉を紡いだ
「大丈夫だよ」