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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第2章 余裕で跳べてしまうから



寝袋オチどころか向かいの部屋・・
何のご褒美だこれは

電話越しに耳元で響く懐かしい声


首にかけていたタオルでコーヒーに濡れた服を拭きながら

この距離なら余裕で跳べるな、
そんなよからぬ事も頭に浮かんだ



「・・こんな時間まで起きてるのか」

「ふふ、聞き方が先生みたい」

「先生だよ」

「なんだか、寝付けなくて」

「それでこんな時間にそんな恰好で外に出たと・・、無防備にも程がある」

せめて上着ぐらい羽織れ、なんてぶつぶつ言っている

昔もよくこうやって怒られていたっけ


“お前なぁ、だからあいつと二人になるなって言っただろ、無防備にも程がある”


付き合っていた頃と同じ言い回しに、急に心臓の音が騒がしくて


「相澤くんこそ、こんなに遅くまで仕事してるの?そ、そりゃドライアイにもなるよ、夜遅くまでパソコン見ちゃだめなんだからね、ちゃんとごはんは食べたの?健康管理は生活のキホン・・っ


「・・お前、焦るとめちゃくちゃ喋るのそのまんまだな」

そう言った彼があの頃と変わらない表情で笑うから、途端に息が上手く吸えなくなる



好きにならないなんて

ああ、やっぱり無理だ



—————


「えっ、わっ・・!」

そんな私の目を覚ますように吹き込んだ強い風が
机上の業務資料を一枚、ひらりと空へ舞い上げる

慌ててバルコニーから身を乗り出し、かろうじてそれを捕まえた拍子に

ぐらり、前のめりにバランスを崩した


「よかっ、た・・!」



「っちょ、おま、危ねェ!!!!」


落ちる、そうぎゅっと目を瞑った瞬間


ガシ、と逞しい腕に支えられバルコニーの壁に背中が付くと、とてつもなく低い声が頭上で響いた


「ったく、何階だと思ってる・・
 そういうところもそのまんまかよ」

数メートル先にいたはずの彼が目の前でシュルル、と捕縛布を回収し眉間に皺を寄せ呟く


「ありがとう、た、大変失礼しました・・」


睨みをきかせる目、怒りを帯びた声色
その凄まじい覇気とは対照的に

私の身体が壁に強く当たらないよう、背中に優しく回された大きな手


「ふふっ」

「何笑ってんだ・・!」

眉間の皺を深くしながら怖い顔で凄まれても


「だって、相澤くんの優しいところもそのまんま、だから」

やっぱり貴方がどうしようもなく好きだと、何だか泣きたくなった
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