第19章 許すとか許さないとか
普段であれば食後のコーヒーの香りがする時刻だろうか、そんなことを思いながら鼻を掠めた甘い石鹸に薄目を開ける
「ああああ、遅刻だよもう!!!」
濡れた髪を乾かしながら叫ぶ彼女に笑いを堪えつつ、俺はゆっくりと寝返りを打った
「相澤くんも早く起きて!」
「気にするな、準備にかかる時間が違う」
疲れの残る気怠い身体をやっと起こすと、皺だらけになったドレスが視界に入る
あの人に会うのが憂鬱だ、
まんまと言われた通りにしてしまった
タチの悪いあの笑みが目に浮かぶ
「あ、化粧はしていった方がいいぞ」
素顔だとまたあの人に理由聞かれるからな、だがその言葉はどうやら彼女には届かない
焦っているその姿を横目にぼんやりと時計を眺めた
「それより朝ごはんだよ、
晩ご飯だって食べてないんだから!」
そう言うと思ったよ、溜息を零しながら
非常事態のように騒ぐ姿に笑いを噛み殺した
ゆらりと立ち上がり、彼女の居るキッチンを目指して
背後に近づいた俺は、彼女が身につけようとしていたエプロンを取り上げるとその身体をキッチンの壁際に追い詰める
「化粧するか、これからまた抱かれるか、
どっちがいいか選ばせてやる」
俺は後者でもいいぞ、昨日みたいにしようか
耳元でそう囁くと彼女は真っ赤な顔で声を絞り出した
「お化粧、してき、ます・・!」
「そうか、それは残念だ」
———
化粧を終えた彼女は、いつも下ろしている髪を急いで一つに束ねると恐る恐る俺の手と額に触れた
「ほぼ栄養失調です・・」
「晩メシ食い損なったからな」
俺の好物作ってくれるんじゃなかったのか、そう言うと可愛い顔が思いっきり睨んだ
そういや昨日は朝も昼も食ってないが
まぁそれは黙っておいた方がいい
たかが一食二食、
三食、抜いたくらいで大袈裟な
「元気出せ、お前にもこれやるよ」
好きなだけ持っていけ、そう言ってゼリー飲料を彼女の前に積むと
こんなの飲んだことないのに、と泣きそうな顔をしてそれを二つ鞄に入れた
「今日はちゃんと晩ご飯食べようね、
あとプレゼントも渡すからね」
早足で歩きながら彼女が願うように呟いて
「へえ、今日も誕生日か、得した気分だな」
ってことは今日も何でも許され・・
、
そう言いかけた時後ろに嫌な気配がした