第19章 許すとか許さないとか
「昨日は随分と激しかったみたいね」
「おはようございます、今日も暇そうですね」
ボロが出るからお前は極力喋るな、
部屋での打合せ通り、下を向いたまま黙っている彼女の髪を香山さんが指に絡める
「お化粧はしても髪をセットする時間は無かっ
た、ってところね」
「早く行きましょう、時間ぎりぎりですよ」
歩く速度を上げようとした俺の腕を無遠慮に掴むと香山さんは楽しそうに呟いた
「そのまま出勤するのは、教育上いかがなもの
かしら」
「・・・何が言いたいんです」
後ろに付いた紅い印
いつもなら絶対に見えない位置、ね
でも髪を束ねると見える場所にあんなに付けるなんて、貴方らしくない
よほど我慢ができなかった、
花嫁姿の彼女はそんなに良かった?
「・・・ご忠告どうも」
「あなたって本当、詰めが甘いわね」
歯を食いしばって睨みつける俺を満足気に一瞥するタチの悪い笑み
いくつあるか数えてあげる、そう言ってその場所を指でなぞると彼女が声を漏らした
「ふふ、可愛い声、ご馳走さま」
鏡でも見えないような場所だもの、
貴女は悪くないわ
後ろから付けられたんでしょう?
にやにやと笑い去っていく後ろ姿と
昨晩の己の失態に
思いつく限りの暴言を声を出さずに吐いた
その横で真っ赤な顔に涙を溜めた彼女が、弱々しく項垂れて髪留めを外す
「悪い、つい調子に・・」
「わたし、泣きそう」
よほど恥ずかしかったのか、何とも言えない色気の抜けない顔に焦りを覚え
そんな顔で職員室入るな、と彼女を保健室へ送り届ける
「今日は会いたくない、用事があっても来ないで」
そう言って彼女は、保健室のドアを思いっきり閉めた
「ほらねマイク!めぐは保健室直行よ〜!」
「HEY新郎サンよォ!
昨日は派手にやらかしたって?!」
一度開けた職員室のドアを力なく閉め、下を向いて息を吐き出すと中から二人の笑い声が聞こえた
自業自得だ、わかってる
昨晩とは違って、何も許されない一日が始まる
今日こそ早く帰ろう、
手料理を褒めてプレゼントも受け取って
全力で彼女の機嫌を取ろう
せめてホームルームくらいは寝袋に入っても許されるだろうか、
はぁ、と特大の溜息が廊下に響いた