第19章 許すとか許さないとか
「街灯が無ければきっと星が見えるのにね、」
そう呟きながら空を見上げた彼女が、寒そうに冷えた手を擦り合わせる
寮までの道を彼女と並んで歩くのはこれで何度目だろうか
「とっても楽しかったね、」
「お前が楽しんでくれたなら何よりだよ」
「ふふ、もう」
羽織ったコートの下に覗いた純白と美しく結われたままの髪に、先程までの時間が夢では無かったのだと実感した
「どうしたの?」
「いや、綺麗だなと思って」
あいつらの手前、まじまじと見つめることができなかったが
改めて見たその姿が本当に綺麗で
綺麗だ、以外の言葉が出てこない自分の語彙力が恨めしい
ああだこうだ、と山田のように気の利いた言葉が出てくればいいのに
「相澤くんに言われると、悪い気はしないね」
なんて、照れて幸せそうに微笑んだその顔には「俺に言われるのが嬉しい」と、そう書いてあって
くだらない憂鬱を吹き飛ばして、自惚れてしまう程の幸せを与えてくれる
街灯の光が彼女の薬指をきらりと光らせて、俺はそっとその手を掴んだ
「校長先生が私じゃない人を採用していたら、
その人が相澤くんの奥さんになったのかな」
そう思うとなんだか怖いなぁ、そんな可愛いことを言って身震いする彼女を優しく抱き寄せる
「何言ってんだ、そこを絶対に間違えないが故の
ハイスペックだ」
とんでもないお墨付きを貰ったんだよ、そう言って溜息をつくと彼女はまた幸せそうに笑った
「おい、行くとこ間違えてるぞ」
靴を脱ぎ、着替えようとクローゼットへ向かう彼女の腕を引く
お前が思い描いている過ごし方には今夜は付き合えそうにない、そう心の中で呟いて
驚きに丸く開いたその目に笑いを堪えた
片手でネクタイを外しながら寝室へと連れ込むと、その身体を抱き上げてベッドに沈める
「何、考えて・・っ、ドレスが皺になっちゃう」
「返却不要、祝いにくれるそうだ」
結婚祝いじゃない、俺の誕生祝いだ
だから俺の好きなようにする、そう囁くと彼女は真っ赤な顔で黙った
「まだ着とけ、見足りない」
「で、でもご飯作らなきゃ、お腹空いてない
だろうけど、お誕生日だし・・」
そう言って起き上がろうとする肩を俺はもう一度ゆっくりと沈めて、鼻先が触れそうな距離でわざとらしく溜息をついた