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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第2章 余裕で跳べてしまうから



エレベーターに乗り、入寮案内に記載された階のボタンを押す
スーツケースを引き摺り辿り着いた角部屋には「薬師」と札に書かれていて

バタン、とドアを閉めた途端、全身の力が抜けへなへなと床に崩れ落ちた



相澤くんが雄英の先生だったなんて

まさかこんな形で再会する日がくるなんて


上手く話せていたかな、ほとんど目を合わせてくれなかったな
当然だよね、昔振った女が突然同僚になるなんて嫌だよね...

それでも寮まで送ってくれたのは、私が気まずい思いをしないようにという彼の変わらない優しさなんだろう


驚きと喜び、募らせていた想い
そして突き放される恐怖

すべてが溢れて爆発しそうだ


明日から同僚・・
確かにずっと会いたかったけれど、心の準備が全くできていない

深く吐いた溜息は暗いままの部屋に溶けた


——————

荷解きを終えた午前0時すぎ、シャワーを浴びやっとベッドに潜り込む


高校生の頃より低くなった彼の声
背も伸びた気がするし髪も髭も昔とは少し違う

でも変わらないあの視線、あの表情


到底寝られる気がしない、諦めて身体を起こすとバルコニーのドアへと手をかけて
静かな夜の闇が優しく私を迎えた


冷んやりとした夜風が頬を撫でる
広くはないけれど居心地のいい場所だ


秋の夜は気持ちがいいなぁ、そう思いっきり伸びをしたところで
真っ直ぐこちらに向けられている視線に気がついた





「え!? わああああっ!!!」

数メートル離れた向かいの一室、男性職員棟のバルコニー
ひどく充血した目を見開いた相澤くんが派手にコーヒーをこぼしている


「え!なんっ、で」

固まる私に片手でスマホを見せると彼はそれを耳に当てて
数秒後、今日貰ったばかりの業務用スマホが「イレイザーヘッド(相澤)」と映し出すと机上で音を立てた



「——あ、相澤くん・・?」

「・・夜中に大声で話すわけにいかないだろ
 連絡先が自動登録でよかったよ」

耳元で響いた低い声
お前の部屋そこなんだな、と向かいの人影がちょんちょんとこちらを指差す


「も、もう!びっくりして叫ぶとこだった!」

「叫んでないと思うか」

おかげでこれだ、呆れた表情の彼はそう言ってコーヒーまみれの服をこちらに見せた



「ふふ、ごめんね、大丈夫?」

「見りゃわかるだろ、大丈夫じゃない」
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