第15章 こうやって堕ちていく
「放課後、屋上来られる?
予定があったら気にしないでください。
突然ごめん。」
控えめに鳴った電子音に画面を開くと彼からの連絡を知らせる文字、相澤くんらしい文面に笑みが漏れた
「めぐ〜!こないだ言ってたクレープ屋さん帰りに寄ってかないー?」
「ごめん、ちょっと予定できちゃって、」
「さては相澤だなー?」
「こ、声が、大きいって!!」
———
屋上の重い扉がゆっくりと開かれる
彼女はこちらを見て微笑むと、照れ臭そうに俺の横に腰を下ろした
「お誘いありがとう」
「・・予定、大丈夫だった? 」
「会いたかったから、すごく嬉しかった」
登場からこの破壊力、咄嗟に視線を落とした俺は課題のレポートを仕舞いながら呼吸を整える
「今日あいつら補習だから、・・邪魔されない」
そう伝えると彼女の頬が染まる
仕返しのつもりで付け加えた一言はどうやら効果を発揮したようだ
お互いのことをほとんど何も知らないのに、居心地がいいなんて柄にもないことを考えていた
運命なんて全く信じていないのに、その顔を見ると危うく考えを改めてしまいそうになる
「相澤くんのこと、なんて呼べばいいかな」
彼女はそう言うと恥ずかしそうに目を伏せて
相変わらず気の利かない俺は「何でも、好きなように、」なんて、そんな答えしか持ち合わせていない
「じゃあとりあえず相澤くんのままで・・」
遠慮がちに発された言葉、スカして答えた自分を全力で呪ってももう遅い
「・・そっちは、何て呼ばれたいの」
あいつらみたいに人前では呼べないけど、と何重にも予防線を張る
自分から呼び出しておいて、我ながら臆病すぎて嫌気がさしてきた
「私も何でも大丈夫だよ、”お前” って言われるのも距離縮まったみたいで嬉しいかも」
紅い顔で彼女が笑って、ほんの少しだけ身体を俺に近づけた
「でも二人の時はね、できればめぐって呼んでほしい、な」
「・・・っ」
不意に発された言葉に、動揺が悟られないよう指に力を集中させると、持っていたペンがバキ、と折れた
「え!あ、大丈・・」
「大丈夫」
悟られまくりだ死にたい、声に出さない分心の中で叫んで
心臓の爆音も全部が聞こえてしまう気がして、必死に冷静な声を絞り出した
「んじゃ、そう呼ぶね」
「指、血出て・・」
「大丈夫」