第13章 悪くないかもしれない
校舎から離れた駅前の商店街、ここまで来れば大丈夫だろうと上がった息を整える
さすがにこのまま電車には乗れないか、屋根のある場所に立ち止まると鞄の中のタオルを探した
ったく、何してんだ俺・・
ガシガシと頭を拭くと幾つもの雨粒が落ちる
まぁあの汚ねェ奴に取られるよりはずっとマシだったろ、驚いた彼女の顔を思い出し苦笑が漏れた
数ヶ月前に図書室で少し話しただけ、きっと彼女は俺の名前も知らない
滴る雫は心にまで染み込み冷たく広がっていくようだ
一緒に帰ろうって言えばよかったのか、そんなの考えるだけ無駄、言えるはずがない
でも俺が山田だったら
白雲だったら、きっと言えたんだろうな
「・・くん!相澤くん・・!」
ハッとして顔を上げると、通りを曲がったばかりの彼女と目が合って
走って追いかけて来たのだろうか、息を上げた彼女は俺を見るとほっとしたように笑った
「もう、速すぎるよ・・!」
傘をさしていたはずの制服には所々に透明な染みが広がって
どこを見ればいいのかわからない俺は動揺が悟られないよう下を向いた
「・・なんで」
「傘ありがとう、でも相澤くんが濡れちゃうのは嫌だから一緒に入ろう?」
って言ってももう遅いよね、そう恥ずかしそうに眉を下げた彼女に心臓がまた煩い音を立てる
何も言えず固まる俺を不思議そうに見ると、小さな背中は俺の横に並び濡れた髪をハンカチで拭いていく
予想外の展開に俺はただただ狼狽えた
「お話するの図書室ぶりだよね、私の名前知っててくれたの嬉しかった」
「そ、そっちこそ、俺の名前」
「ふふ、相澤くんは有名人だから」
そう言って彼女はまた、花が咲いたように笑って
自分の暗い心と重なる嫌な雨
生まれて初めて、このまま止まないでほしいと思った
「・・さっきの先輩には気をつけた方がいい、薬師さんの傘あいつが隠してた」
「え?!な、なんで・・」
「一緒に帰ろうって声かけるためだってさ」
「ひ、ちょっと怖いね・・」
肩を並べるだけでこんなにも胸が騒がしくて、ひたすらにタオルを握りしめる
「・・じゃあ相澤くんは私を助けてくれたんだね、ありがとう」
優しいその視線に思わず目が泳ぎ、そんな俺を見て彼女はまた笑った
「・・たまたま聞いちゃっただけ」
「それでも嬉しいよ、さすがヒーローだね」