第13章 悪くないかもしれない
ヒーロー・・
俺は相当驚いた顔をしていたのだろう、今度は彼女がきょとんと目を丸くした
「だって自分がずぶ濡れになってまで私を助けてくれたんでしょう?ありがとう、イレイザーヘッド」
「、なんで知って・・!」
「言ったでしょ、有名人だって」
ちゃんと知ってるよ、そう得意気に笑った彼女にはこの雨が全然似合わない
この雨みたいな俺も似合わない、と思う
3バカの括りだ、どうせいい方の有名人じゃない
そうわかっていても名付けて間もないヒーロー名で感謝を述べられる衝撃は絶大で
それがこの子なら尚更、
複雑な想いが顔に出ていたのだろう、視線を迷わせる俺に彼女はもう一度確かめるように言った
「相澤くんは、私のヒーローだよ」
俺だけに向けられたその笑顔とその言葉は
自分は何も守れないなんて卑屈になるのはやめよう、そう俺の心を晴れさせるには充分すぎるほどだった
「あ、雨止んだね!」
彼女の言う通り、見上げた曇り空はいつの間にか少しずつ明るさを取り戻していて
まだ止まなくてよかったのに、なんて思っているのは俺だけだよな
「傘、本当にありがとう」
差し出されたそれを受け取ると、少し残る彼女の温度が伝わった
「・・この前ブランケット借りたから」
ぱちりと目を開いた彼女が俺を見てふわりと笑う
「相澤くんって意外と律儀なんだね!」
「・・意外と、って何」
「ふふ、怒らないで」
連絡先を聞くなら今しかない、そう思うのに何も言葉が出てこない
こんなチャンスもう二度と無いのに
「ねぇ相澤くん、お友達になれた、って思ってもいいかな・・?」
彼女の頬が紅く見えるのは店のビニール屋根が赤だから、だ
いつまで下向いてるんだ俺は
どちらにせよ赤く見えるなら大丈夫だろ、そう言い聞かせ熱い顔を上げる
「・・図書室の時からそう思ってるけど」
そう言うと、今度こそ間違いなく彼女の頬が紅く染まったような気がした
無力感に打ちひしがれながら仔猫の上にさした弱気な傘
彼女のことは守ることができたと、そう思ってもいいだろうか
「嬉しい・・!今日が雨でよかった」
俺の方が絶対嬉しいけどね、なんてやっぱり言えないし連絡先も聞けない
でも雨の日もそんなに悪くないかもしれない
急に大切に思えてきたビニール傘を俺はぎゅっと握りしめた