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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第12章 むかしのはなし


手を握られた時に感じた彼女の温度が、シャーペンを持つ手に残る
服に微かに染み付いた甘い香りが頭を痺れさせて


心臓が、うるせェ・・


場所を変えよう、ここじゃ無理だ
そう思うのに

もしかしたらもう一度話せるかもしれない
今出て行ったら二度と話せないかもしれない

名前を聞く勇気も無いくせにそんな考えが頭をよぎる

でもほら、消しゴム忘れたとかシャーペンの芯が切れたとか
何か、そう何かが、起こるかもしれないだろ


・・もう一回寝たらまた世話を焼いてくれるかな

そんなことを考えていた矢先、無慈悲にも大きな音を響かせて図書室のドアが開いた




「見つけたゼェ!ショータ!こんなトコに隠れやがってェ!!」

「ショータくぅーん!ゲーセン行きましょ〜!」

聞き慣れた大声と叩きつけられた反動でドアが大きく揺れる



ああ、終わった

「・・土曜まで探しに来てんじゃねェよ」
そう呟き立ち上がると二人を引きずり扉へと向かう
穏やかだった空気は一気に消え失せて、むさ苦しい現実に引き戻される思いがした


「なんか今日ショータいい匂いしねえ?」

「それオレも思った!なんか女子みたいな」

「・・そんなワケねえだろ、アホか」

肩に感じる甘い香りをできるだけ振り切るように、いつも以上の速度で歩いて

「ほぉー?これはニオイますね白雲サァン」

「激しく同感であります山田サン」

でも忘れてしまわないように、あの優しい微笑みを何度も何度も思い出していた


———-

「ショータお前、あのコだろ?」

バシッと背中を叩かれ我に返ると、にやにやと笑う二人の顔

「俺は知ってるぜ?彼女の名前、友達、趣味、家の住所まで!なァひざしィ!」

「は、何の話か全く・・」

「照〜れちゃってェ〜!毎日お前と居んのよ?食堂とか廊下とか、目で追ってんのバ・レ・バ・レ!」


魅力的なのは笑った顔だけじゃない、表情がころころと変わり鈴を転がすような声が聞こえる

俺に無いものを沢山持っている君をずっと見ていたい


「言ってるそばからコレよ、HAHA!」

「そんなに見られたらドキドキしちゃう〜」

拳に力を入れ、続け様に腹を殴ると二人は床を転がって
それでも大声で笑い続ける姿に舌打ちが漏れる

集まった視線が居心地悪くて、お前らと居ると俺まで目立つだろ、そう悪態をつくと早々に食堂を後にした
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