• テキストサイズ

◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第1章 話しかけてもいいか



「相澤くん、雄英の先生なんだね
 びっくりしちゃった・・」

「お前こそ東京の医療機関に勤めてたんじゃないのか」

肩を並べて歩く道、落ち着かない頭を必死に集中させて言葉を繋ぐ



「うん、十年勤めて研究も一区切りしてね、
 リカバリーガールの補佐のお話を頂いて
 母校でお世話になることにしたんだ」

心機一転頑張ります、照れ臭そうに呟いた横顔に胸の奥が苦しくなる

笑った顔も変わらないな






「・・送ってくれてありがとう、
 相澤くんが居てくれて、本当に心強いよ」


まともに顔も見られないまま、気づくと教職員寮を見上げていて
俺から荷物を受け取った彼女がふわりと笑った

「・・じゃあ、また明日、ね」

「ああ」






また明日、か


その姿が見えなくなった途端、一気に渇いていく心



渇いて、溢れて



彼女を欲しがる資格なんて俺には無い
どこまで都合がいいんだ、と当たり前のことを何度も自分に言い聞かせる







それなら



彼女の方から俺を欲してはくれないだろうか



なんて

冷静さとは程遠い、平常心を凌駕していくこの感覚すら懐かしい



ゆっくりと沈んでいく陽が辺りを少しずつ塗り替えると、途端に響くのは夕暮れを感じさせる虫の声



兎に角必死だったこの十年、
色恋に現をぬかす暇も余裕も到底なかった
だから”お前をずっと想っていた”なんて言えるはずがない

だがもし、また恋に落ちることがあるのなら相手はお前がいい
そしてお前も俺と同じように願ってくれていたならどんなにいいかと、都合の良すぎる考えが頭を支配していく

今すぐに追いかけて抱きしめてこの気持ちを叫んだら、彼女はどんな顔をするのだろう

らしくない感情に呆れて漏れた溜息は、薄紫に染まった空へと溶ける



明日からどうしたものかと建物の前に佇む俺をふわりと包んだのは、昔彼女が好きだと言っていた金木犀の香り
毎年キャンパスを包んでいたはずなのに今はとてつもなく特別なもののように感じて




「・・また明日、か」

目が覚めたら寝袋の中、なんて夢オチじゃないことを祈りつつ
職員室へとその重い足を動かした

/ 168ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp