第11章 それは誰のせい
「それが、そうでもなくてね、はは」
思わず見開いた目、至近距離のテーブルを映した途端に乾きを感じる
焦りの滲む声色で笑った彼女は気まずそうにまたグラスを口元へ運んでいるようだ
少し長めの沈黙、おそらくその中身を流し込んでいるのだろう
「もう、そんな過去のこと聞かないでよ、」
そう言ってわざとらしい笑い声をあげた彼女と対照的に、この先を聞くかやめるか、急激に酔いの醒めた山田が冷や汗を流している気配がする
おい、絶対ここでやめるなよ
お前喋りでメシ食ってんだろ
上手いこと聞き出せ、ラジオDJさんよ
テーブルに突っ伏したまま俺は念を送り、固まっているDJの脛を思い切り蹴った
「Ah〜コレ絶対シヴィやつだ...」
「ん?どうしたの、山田くん」
「いや、コッチの話」
おかわりどうぞ、そう言って彼女が山田のグラスに酒を注ぐと珍しく溜息をついた山田がゆっくりと彼女に尋ねた
「ソレはそいつと色々シたってこと、カナ?」
もうちょい聞き方あるだろ・・、呆れた溜息を飲み込む
多少不憫な役回りではあるがそもそもこいつが撒いた種だ
「え、うん、まぁそんな感じかな・・」
いい思い出ではないのだろうか、少し考えた彼女はぽつりぽつりと続けた
「何も無いまま終わるはずだったんだけどね、約束の一週間が経って電話で謝ったら家に来られてそれで・・、」
何とかやり過ごそうとしていた私がいけなかったの、彼女の声が下がり静かな空気に溶けていく
何言わせてんだクソ野郎、と俺はまたDJの脛を蹴った
オイオイオイ、コレ悪いの俺ェ・・?
超BIGな地雷なんですケドォ・・
そんな呟きを無視して瞼を閉じる
俺への未練を断ち切れていたとしたら、彼女はその男と幸せになっていたのだろうか
・・少なくともその初めての経験は幸せな思い出になっただろうか
いや、そもそも俺が彼女を手放さなければ——
「半端なことするんじゃなかった、悪いことしたって本当に後悔したの・・、好きでいてくれたのに応えられなかった」
結局相手を傷つけてそれで終わり、そう言って鼻を啜った彼女の声には心からの後悔が滲んでいた
「なんていうか・・お前ら似た者同士なのね・・」
「へ?」
呆れたようにへらりと笑った山田はつまみを口に放り込んで、短く溜息を吐くと穏やかな声を響かせた