第9章 たまには君から
一番に吊るされたいであろう男が「人が多いので気を付けて下さいね」などとエスコートを装い彼女の背中にさりげなく腕を回して
黙っているつもりなど毛頭無い、ネクタイを緩めいよいよ捕縛布を手にした時
彼女はやんわりとその男を躱し、山田の言葉通り夜空の満天の星たちも敵わない笑顔で告げた
「ふふ、お声がけありがとうございます、
主人を待たせていますので失礼しますね」
そう言ってグラスを二つ手にした彼女が、真っ直ぐに俺のところに戻って来る
主人・・
主人!!!!!!!
我ながら単細胞だ、にやける口元を片手で隠して下を向いた
「遅くなってごめんね、」
どっちがいい?、そう言ってカクテルを差し出した彼女に「好きな方を選べ」と伝える
予想通り菫色のグラスを選んだ彼女は「そっちも一口くれる?」とまた可愛いことを言った
ああ、幸せだ
来てよかった、法で縛っておいてよかった
「あれ、さっきからなんだかご機嫌だね
誰かとお話したのかな?」
キョロキョロと辺りを見回す彼女の細い肩を抱き寄せる
「綺麗な人が沢山居るからって
あんまり目移りしないでね、相澤くん」
尖らせた唇がそう言葉を紡ぐと、少しだけ頬を膨らませた彼女が俺を見上げた
ああ、たまらない
思っていた展開と随分違う
目を離した隙に酒に酔ったこいつが襲われかけて
そこに助けに来た俺が、相手の男が死ぬまで殴る
そんなシナリオしか頭に無かったが、どうやらそれは回避できそうだ
「にやにやして、、本当にどうしちゃったの?」
「この状況を堪能してる、どんどん妬いてくれ」
「もう!そんなこと言ってると仕返ししちゃうから」
「やめておいた方がいいぞ、相手の男が死ぬことになる」
そう言って口角を上げると、一瞬目をぱちくりとさせた彼女がとろけるように笑った
「ふふ、もう!酔ってるの?」
「かもな」
もう充分、パーティーは満喫したよ
早く帰ってお前を抱きたい
囁きに染まる小さな耳を眺めながら、俺はグラスの中身を飲み干した
「あれ、相澤君と薬師君だよね?
完全に二人の世界じゃないか・・」
「Soooなんすよオールマイトさァん!
イレイザーは文字通り彼女に骨抜きィ!
あんな顔して煩悩の塊ィ!」
「へぇ・・!珍しいものを見せてもらった気分だよ」