第7章 持ち物には名前を
「相澤くんにも結婚願望あったんだね」
人の行き交う通り、繋いだ手を握りしめて彼を見上げる
身なりを整えた相澤くんは今朝とはまるで別人のように感じられて、私は小さく笑いを溢した
「結婚なんて、興味ないと思ってた」
呆れたように私を見遣った彼が、まぁ無理も無いか、そんな風に呟いて
鏡のように磨かれたガラスに二人の姿が映ると、照れ臭くて私は目を伏せた
「・・お前の人生を俺に縛れるものなら何でも活用する、それだけだよ」
思わず見上げると赤くなった耳が視界に入って、込み上げる愛しさのまま、私はその頬に口付ける
場所を考えろ、そう言って少しだけ焦ったように顔を顰めた彼が下を向いた
———
「好きなの選べ、俺はよく分からん」
きらきらと照明を反射した光がいくつも視界に入る、慣れない雰囲気と明るさに目が痛み、顔を輝かせる彼女を横目に眼薬を注した
ご婚約ですか、おめでとうございます、
にこやかな店員が彼女に話しかけると薄く染まった目元、照れて視線を落としたその顔を忘れてしまわないようにと目に焼き付ける
「これ、どうかな、」
相澤くんの捕縛布に似てる気がする、そう言って彼女が指差したのは左右交差するようなデザインの華奢な指輪、
好みや価値は全くもって分からないが、もっと大きな石を想像していた俺は探るように彼女を見遣った
「遠慮するなよ、金ならある」
「ふふ!それは頼もしいなぁ」
華やかなものが数多くある中、彼女が選んだそれはあまりにシンプルで
「その隣とか、ああいうのじゃないのか」
よくわからんが、そんな風に口を出す俺ごと、店員が微笑ましく見守っているこの状況は酷く居心地が悪い
「選んでくれるの?」
「そういう訳じゃない」
武器に似てるのは微妙だろ、慣れない上着の所為か店内がやけに蒸し暑く感じて
「私の人生を縛りたいって、言ってたでしょ」
見るたび思い出せて幸せだけどなぁ、悪戯っぽく笑った彼女がちらりと俺を覗き込む
敵うわけがない、その言葉がどれほど俺を喜ばせるかわかってて言ってるんだろ
「すごく綺麗・・!」
内側に俺の名前が刻まれた指輪が、これからずっとお前の左手に光る
悪くない気分だ
持ち物に名前を付けるように
お前の心も身体も全部、俺のものになってくれ
一生、大切にするよ