第7章 持ち物には名前を
どさりと倒れ込んで数分、ようやく息が整い始めた私はまだ頭が朦朧としている
冷めない余韻の残るまま、私は思い切り相澤くんを睨んだ
「・・やめてって言ったのに」
「気持ちよかったね」
「真顔でそういうこと言わないで・・!」
あんなに激しく抱いておいて
身体大丈夫か、なんて心配そうに言う貴方は本当にずるい
引き寄せた服を羽織り窓を開けると、白み始めた空が見えた
「さて、溜まった仕事を片付けるか」
「昨日何もできてないもんね」
キッチンに立つと背中に感じる視線、振り返らなくても伝わる温度が私を落ち着かなくさせる
湯気の漂うカップを持ち上げ振り向くと、想像していた通りの甘い視線が絡みついた
「・・何もやれていないどころか」
人生最大の難題をクリアしたよ、溜息に似た微笑みが彼の口角を僅かに上げる
「やる事も幾つか増えたが」
「ふふ、どういうこと?」
「最優先で取り掛かる」
テーブルに伸ばされた指先が私の手を引き寄せる
絡められたそれは思っていたよりも力強くて私は大きく瞬きをした
「俺はな、待たせるつもりも、待つつもりもないよ」
「今、なん、て、」
気管に入ったコーヒーに咽せて数秒、咳込んだ私が途切れ途切れ聞き返すと、彼はご丁寧に言葉を繰り返した
「手土産買ってご両親へ挨拶、婚姻届と指輪、そうだな、家族棟に移るための手続き書類も書くか、校長と山田には今日中に報告して、」
授業カリキュラムを話すように淡々と話す彼に唖然とする
カップに触れた指が分かりやすく震えて、私は慌ててそれをテーブルに置いた
「それは、どういう」
「明日からまた平日だ」
今日中に済ませるのが最善だろう、平然と言葉を紡ぐ彼がコーヒーをひと口含む
逸らされないままの視線が私の反応を試しているのだと分かると、その不器用さにじわじわと愛しさが込み上げた
「さ、最善って!ふふ!」
夢見てきたものとはだいぶ違うけれど
「・・笑ってないで答えろ、結婚してくれと言ってるんだ」
その真っ直ぐな目に、いつまでも私だけを写していて
「嬉しい・・、よろしくお願いします」
気の利いた返しが浮かばなくてありのまま紡いだ言葉、弾かれたように椅子から立ち上がった彼は息が止まりそうなほど強く私を抱きしめた