第8章 いい写真だろ
授業、昼休み、廊下、放課後、おまけに職員室
誰かさんの所為で散々な目にあった一日がやっと終わり、彼女の声だけが鼓膜を揺らす穏やかな時間にたどり着いた
「今日はかなりお疲れのご様子だね」
おつかれさま、そう微笑んだ彼女がテーブルに突っ伏したままの俺の髪を撫でる
「お前こそ、大変だったんじゃないのか・・
あいつらみんな俺じゃなくて
お前んとこに詰問に行っただろ」
食後の紅茶のいい香りが漂い、優しいその指先が眠気を誘う
「これ以上無いくらい賑やかな一日だったよ、
ふふ、楽しかった」
にこにこと幸せそうに笑う彼女を見ているとゆっくりと疲れが癒えていく
「みんな相澤先生の結婚をすごく喜んでてね
私まで嬉しくなっちゃった、
安らぎの場所になってあげて下さい!だって、
愛されてるね、相澤くん」
「ったく、自分たちが疲れの元凶だって認識してんのかよあいつら・・」
呆れた俺がそう溜息をついても、目の前の幸せそうな顔は一向に崩れない
「それにね、女の子たちから沢山恋愛相談されちゃった、あの相澤先生を落としたなんてすごい!なんて褒められてね」
「麗日、芦戸、あたりか」
「あと蛙吹さんと耳郎さんと葉隠さんと八百万さん」
「全員じゃねぇか!」
恋愛に現抜かしてる暇なんかねぇだろ、俺の顔にはどうやらそう書いてあったらしい
ちらりと此方を見て意味深に笑った顔がカップを口元へと運んだ
「相澤くんだってちょっぴり現抜かしてたこと
あるでしょ」
夢に向かって頑張る姿って魅力的だもの、惹かれない方が難しいよね
でも相手も自分も高い目標を目指してるってわかってるから、簡単には想いを告げられない
彼女たちの恋心と葛藤が、なんだか昔の自分に重なっちゃった
懐かしそうに微笑んだ彼女の手を握り甲に口付けると、はにかむようにその唇が弧を描く
滑らかな肌が離れるのはその度に名残惜しい
「で、その好きな奴と結婚した気分は」
目線を上げ呟くと、彼女はぱちりと大きく瞬きをしてわざとらしく首を傾げた
「あれ?私が雄英で付き合ったの相澤くんだけだと思ってる?」
「あ゛ぁ?! お前なぁ・・!」
「あはは!冗談でしょうっ」
タチの悪い冗談に思い切り睨み付けても、呑気なその顔に毒気を抜かれて
絡めた指を強く握ると美しい手にきらりと指輪が光った