第8章 いい写真だろ
抱き合えば、少し早く響く彼の鼓動
その大きな手でずっと私を縛っていて
骨張った指が優しく私の髪を耳にかければ、それは始まりの合図
「我慢するな、声が聞きたい」
「今日はしないって・・言ってなかった、?」
身体きついだろ、先程申し訳無さそうにそう謝っていた彼はどこへ行ったのか
「・・お前が変なこと言うから気が変わった」
無表情で私のパジャマのボタンを外していく彼が可笑しくて笑ってしまう
普段は大人で、冷静で、理性的な彼が
私の前では子供のように我が儘なことがたまらなく愛おしい
だからなんだって、許してしまうのだ
「ずっと好きだった相澤くんと結婚できて本当に幸せ」
「言うのが遅い」
不機嫌そうに言う彼の耳はまた真っ赤に染まっていて
「赤くなってる、可愛い」
なんて揶揄ったことを、私はすぐに後悔することになるのだけれど
「この状況で喧嘩を売るとは大したもんだ」
そう言って彼はまた、息ができないほど長く私に口付けた
「俺と別れた後男がいたのか、
どこのどいつだ、付き合ってたのか
なぁ言えよ、めぐ」
「んもうっ、嘘だってば・・っ!」
「ちゃんと言うまで挿れてやんない」
再会まで十年以上、互いにこういう行為だって初めてじゃない
自分の事を棚に上げて言う、大人気なくて結構
お前の初めてが俺じゃなかったと思うと、肚わた煮えくり返るんだよ
結局また意識が飛ぶまで抱き潰し、すやすやと眠る彼女を見て反省の溜息をつく
このままじゃ彼女に幻滅されてしまうのではないか、そう思う反面
俺が何をしてもきっとこいつは包み込んでくれるだろう、なんて
この甘えた安心感は何なんだろうな
「相澤くん・・」
俺の名前を呼ぶ愛しい寝顔に手を伸ばして、柔い頬に触れると彼女がゆっくりと薄く目を開けた
縛っても縛っても足りないんだ
無理だと分かっていても過去を取り戻したくて捥く俺を、お前だけは受け止め続けてほしい
手がかかって悪いと思ってるよ
「ん、眠れないの・・?おいで」
細い腕が俺の首を引き寄せ、聞こえるのはゆっくりと流れる彼女の胸の音
「愛してる、相澤くん」
「ああ、頼むからずっと愛しててくれ」
眠そうな彼女は少しだけ驚いた顔をして、俺をその胸に抱き寄せた
「ふふ、大丈夫だよ」