第7章 持ち物には名前を
「え、今なんて・・」
思わず耳を疑った私が聞き返すと、彼はご丁寧に言葉を繰り返した
「手土産買ってご両親へ挨拶、そのまま婚姻
届を提出、指輪を買って、そうだな、
新幹線の中で家族棟に移るための手続き書
類も書こう、校長と山田には今日中に報告
して、んで、夜は新婚初夜な」
授業カリキュラムを話すように淡々と告げる彼に、唖然とする
「ふ、へ?! 相澤くん!?」
「明日からまた平日だ、どうせ忙しくなる、
今日中に全部済ませるのが最善だろう」
こんなの、って
夢見てきたものとはだいぶ違うけれど
「さ、最善って、!あははは!
もう、相澤くん!お腹痛い・・っ!」
ああ なんて可愛い人
「・・笑ってないで答えろ、
俺と結婚してくれと言ってるんだ」
あなたのことが、たまらなく好き
その真っ直ぐな目に、いつまでも私だけを写していて
「ふふ、よろしくお願いします」
私がそう言うと彼は椅子から立ち上がって、息が止まりそうな程強く私を抱きしめた
———
「相澤くんにも結婚願望あったんだね」
人の行き交う通り、繋いだ手を握りしめて呟いた
「・・お前の人生を俺に縛れるものなら何でも活用する、それだけだよ」
嬉しくて頬に口付けを落とすと
場所を考えろ、赤くなった彼は下を向いた
「好きなの選べ、俺はこういうの分からん」
慣れない雰囲気と光に目が痛み、顔を輝かせる彼女を横目に眼薬を注す
「これ、相澤くんの捕縛布に少し似てる」
彼女が指差したのは左右交差するようなデザインの華奢な指輪
「おい遠慮するなよ、金ならある」
「ふふ、それは頼もしいなぁ」
華やかなものが数ある中、彼女が選んだのはとてもシンプルなそれで
というより武器に似てるってどう考えても微妙だろ、さすがにもうちょい可愛いやつに・・
「私の人生を縛りたいって言ってたでしょ」
相澤くんのものだってこと、見るたび思い出せて私は幸せだけどな、なんて彼女は悪戯っぽく俺を覗き込んだ
敵うわけがない、その言葉がどれほど俺を喜ばせるかわかってて言ってるんだろ
内側に俺の名前が刻まれた指輪が、これからずっとお前の左手に光る
悪くない気分だ
持ち物に名前を付けるように
お前の心も身体も全部、俺のものになってくれ
一生、大切にするよ