第4章 ビタミン剤よりよっぽど
朝あれほど疎ましかった陽の光、当たり前に傾き始めたそれにまた理不尽な苛立ちを向ける
「重いでしょ、一つくらい持たせて?」
「この為に来てる」
その瞳が一瞬揺れたのは気のせいだろうか、窺うようにじっと見つめると彼女は態とらしく辺りを見渡した
「なんだか、私が持たせてるみたい」
「その認識は間違ってないよ」
「・・相変わらず律儀だなぁ」
お前は何も分かっていない、片手が空けば間違いなくその指に触れてしまうことも、おそらくそれだけでは済まないことも
人混みを抜けたその先、駅までの道のりは今までの喧騒が嘘のように静かに伸びて
道路には二つの影、時折肩の重なるそれに視線を落とす
かさかさと触れ合う紙袋の音だけが人気の無い道沿いに響いていた
「人も少なくなってきたね」
小さく呟いた彼女がふと足を止める、その目線の先には上品な食器がオレンジの夕陽に煌めいて
「素敵・・」
そう溢した彼女がガラス細工の施されたグラスを手に取る
色違いのそれは大きさもデザインも若干異なる、明らかに男女で対になっているもので
おいおい、せっかくのハーブティーが出そうだ
「ごめん、少しだけ待っててくれる?」
申し訳なさそうに両手を合わせた彼女がくるりと俺に背中を向ける
お前が他の男と使うモンなんざ見たくねェよ、次第に涼しくなり始めた空気に最大級の溜息が落ちた
———
一目惚れしたペアグラス、柔らかな光を反射し合うそれが私の手にキラキラと光の模様をつくっている
対になった二つを眺めながら、窓越しに彼の姿を盗み見た
もしも私の部屋に来てくれることがあったなら、なんて
そんな日は来ないとわかっているのに
「・・浮かれすぎだよね、ほんと」
お店の時計が夕刻を知らせる、心地の良いメロディが流れると私にかかった魔法もあっという間に解けていく
同僚以上にはなれない、望まない、そう決めたんじゃなかったの
精神的に不安定なのは私の方だ
でも見るたび今日を思い出すだけなら、彼の迷惑にはならないはずと
そんな苦しい言い訳を心に落として、少しだけ潤んだ視界が目の前のグラスを更に綺麗に見せた