第4章 ビタミン剤よりよっぽど
「めぐ、!」
久しぶりに口にしたその名前に、部屋に入ろうとした彼女が立ち止まる
微かに聞こえたその息遣い、想像していたよりもずっと情けない声が出た
「・・待ってくれ、頼む」
俺といない方が彼女も幸せだ、なんて結局自分可愛さに突き放したんだ
次はもう間違えないと、そう決めたんじゃなかったのか
「悪い、嫌な言い方をした」
「ううん、」
嫌な思いさせてごめんね、彼女が小さく頭を下げて明るく繕った声が震えている
落とされたままの視線、自身の愚かさを呪ってももう遅い
「ゆっくり休んでね」
「違う、違うんだ、ごめん」
私は大丈夫だよ、困ったように笑うその表情が、別れを告げた時と重なって
途端に心臓を掴まれたように苦しくて、今すぐに触れたくて、どこまで自分勝手なんだ俺は
「傷付けて、悪かった」
今も、あの時も
「お前の気持ちを、」
「ふふ、もう大丈夫だってば」
そんなに謝らないで、どうしちゃったの、先ほどよりも少しだけ安堵を感じる声色、視線の先の彼女は心配そうに俺を窺っている
「・・今日、予定あるか」
何でもするよ、もっと気の利いた言葉は出ないのか、そう恨めしく思いながら視線を上げる
心底驚いた顔の彼女は何度か瞬きをして、おずおずと言葉を繋げた
「、まだ足りない雑貨があってね、」
数駅先にショッピングモールがあるって聞いたの、彼女がそう言い終わらないうちに言葉が流れていく
「俺も行っていいか」
荷物持ちくらいにはなるよ、そう言うなり彼女は声を出して笑った
「もう、そんな罪滅ぼしみたいなこと」
「・・頼む、お前と過ごしたい」
最後の一言はもはや謝罪の類でも何でもない、
いい歳した男が必死に繋ぎ止めようと画策している醜態は青春時代のそれとは全く違う
「きっと退屈だよ?」
十年前は無理だったかもしれないが
この程度の距離、今は余裕で跳べてしまう
だからごめんな、諦められない
必ずお前を捕まえる
「俺が全部支払ってもいい」
「ふふ、相澤くんまだ酔ってるのね?」
そう言って目線を上げた彼女が俺を見て微笑む
酔い覚ましもやっぱり貰っていいか、そう聞くと一瞬目を見開いた彼女は泣きそうな声で「ありがとう」と言った