第30章 もう間違えない
澄んだ黒に幾つかの星が輝き始めた夕刻、膝を抱え不貞腐れる私を背にくつくつと笑いを堪えた彼がゆっくりと立ち上がった
「晩メシ、どっか食い行くか」
せっかくの休みだ、出掛けたいんだったな、
振り向いたその顔目掛けて思い切り投げた枕は当然ながらあっさりと躱され床へと落ちる
「誰かさんのせいで歩けそうにありません・・!」
「へぇ、そりゃ残念だね」
もう!言わせようとしてるでしょ、シーツを引っ張り上げその顔を睨み付ける
全く悪びれない様子の相澤くんは上機嫌に髪を纏めると落ちた枕を拾い上げ、テーブルの上の缶へと手を伸ばした
「これだよ」
缶を開ける乾いた音が部屋に響き、すっきりとしたコーヒーの香りが漂う
「え?」
「コレがすぐに買える場所だろう、と」
目を丸くする私を横目に、あっという間に飲み干された空の缶がゆらゆらと揺れて
それを愛おしそうに眺めると相澤くんはベッドの端に腰掛けた
「あの神社、自販機は二箇所しかない」
そのうち一つは今朝一緒に通った出入り口付近にある、穏やかな声と共に伸ばされた手が優しく私の髪を滑りくるくると毛先を巻き付けた
「連絡が来たら、買って合流するつもりだったんだろ」
彼の言わんとしていることがやっと分かり、気恥ずかしさで隠れてしまいたくなる
はらりと髪を避けた指先が鎖骨を撫で、満足気に弧を描いた唇がそっとそこに口付けを落とした
「甘酒よりコーヒーがいいかと思って・・」
「ああ、その通りだ」
俺の事ばかり考えるお前のことだ、そうだろうと思ったよ
真っ直ぐ射抜くような視線に見つめられ、顔に熱が集まるのを感じる
「す、すごい自信・・!偶然かもしれないでしょ・・」
「でもお前はあの場所に居た」
俺に見つけてほしかったんだろ、勝ち誇ったように笑った相澤くんがゆっくりと私の肩を沈めていく
カーテンの隙間から覗く月明かりが彼の胸元を照らして、うっすらと色付いた幾つかの印はつい先ほど私自身が咲かせたものだ
「さ、水分補給も終えたことだし」
「え!?あ、ちょっ・・っと、!」
「メシも要らないみたいだしな」