第30章 もう間違えない
ベッドの軋む音とともに、押し返してもびくともしない重さが私に加えられていく
有無を言わせないその力加減は、行為中の優しいものとは比べ物にならないほど我儘で、獰猛で、それでいて甘えるように繊細だ
「嫌ならもう少しマシな顔しろ」
呆れたように吹き出した彼の指先が私の髪を耳に掛ければ、それは長い夜の始まり
細められるその瞳は寡黙な彼らしくないほど雄弁に愛を語る
「嫌なわけ、ない・・でも、」
「それが聞ければ充分」
愛おしそうに頬を撫でた手がくしゃりと私の髪に沈むと、乾いた唇から甘い口付けが降ってくる
あまりにも幸せで、本当に私のこと好きなんだね、なんて軽口を叩いてみれば相澤くんは得意気に笑った
「図書室で会った時からずっとな」
「ふーん」
別れてからもずっと好きだったのか、自分でもわからない、
「そう言ってましたけどね?」
「・・今はわかる」
不服そうに眉が顰められるのと同時に抱きしめる腕の力は分かりやすく強まって
脚が擦り合わさる度自分の胸の音が大きくなっていくのを感じながら、私は自ら夜に飛び込んでいく
「ふーーん」
「・・わからせてやるしかないね」
他愛ない応酬に二人揃って笑みがこぼれ、指を絡めた彼が優しく指輪に口付ける
ずっとこの夜が続けばいいなんて、閉じ込めておきたいのは私の方だと苦笑が漏れた
「ところで、今何時なのかな、」
空腹具合からすると八時かもしれないし、まだ五時かもしれない
さすがに夜中ってことは無さそうだけれど、チラリと覗いた真冬の空はどこまでも暗くて
そんな些細な事気にするなと不親切に私を誘う
「まだ六時くらいだよね?」
「教えない」
耳元で響いたその声にまた簡単に身体が熱くなるのが情けなくて
全て見透かした相澤くんの唇は離れる事なく楽し気に続けた
「、めぐ」
「も・・、っ耳やめて・・!」
「やめない」
暗いのが気になるのか、そう言って彼が意地悪に微笑むと
いつもは点けない枕元の灯りが橙色にぼんやりと光って、咄嗟に身体を隠した私の耳元でくつくつと笑う声が聞こえる
「なぁ、休憩終了でいいか」
もう待たない、そう語る眼が先ほどよりもはっきりと見えるから
薄橙に照らされたシーツの下、抗議の声を思わず呑み込んでしまった私は投げようと掴んだ枕に熱い顔を埋めた
◉おしまい◉