第30章 もう間違えない
喉渇いたでしょ、自販機の前で呟いた彼女がコーヒーのボタンを押す
ガシャン、という音を立てて転がったそれを手に取るとにこにこと俺の前へ差し出した
「せっかくだし、お店まわりたいな!」
「・・そうだな」
やっと楽しめる、嬉しそうに語る彼女を横目に温かい缶に視線を落とす
俺は今すぐに帰って二人きりで過ごしたいが、とは言えず心の中で呟いた
「お前相変わらず好きだな、こういう場所」
「うん、来年も一緒に来ようね!」
ゆっくりと一歩を踏み出し呟いた横顔はあの日のように照れ臭そうで
もしかしたら彼女も同じ事を考えていたのかもしれない、なんて自惚れてしまう
「来年、お前がまだ俺を好きだったらな」
「ふふ、じゃあ絶対大丈夫だ」
「言ったな、その言葉忘れるなよ」
立ち止まりぎゅっと絡めた指先を握ると不思議そうにこちらを見上げる瞳
軽く引き寄せて口付けを落とすと愛らしい唇が驚きに小さく開いた
「ちょっ、!そ、とだよ・・!」
「来年も再来年も」
俺が死ぬまで
いや、死んだって離してやらない
真っ直ぐに目を見て言葉を紡げば、驚いたその顔があの日と同じように一瞬にして紅く染まる
「ど、どうしたの相澤くん、まさか本当に個性事故・・?」
「・・・もう二度と言わない」
「え、嘘、やだ、ごめんって!」
恥ずかしそうにこちらを伺うその目が潤んで、幸せだと叫び出しそうなその口から飛び出したのは、最上級に甘いお返しの言葉
「あの・・ね?寒いし、やっぱり帰ろっか・・」
「そんな赤い顔で、寒いって?」
まだ開けていない缶コーヒーを手渡すと、彼女はバツが悪そうにふるふると首を横に振った
「ふ、ふたりで、過ごしたくて」
「へえ」
「いやなら・・いいです・・」
こみ上げる笑いを堪え耳元に唇を寄せる
そのまま菫色の耳飾りに触れると困ったように下がった眉が顰められた
「それは都合の良いように解釈していいか」
「な、変な意味じゃ・・!」
「なら言えよ、帰ったら何がしたいのか」
にやりと笑えば、目を吊り上げ繋いだ手を振り解いた彼女が大股で出口へと進んでいく
そんな風に歩けるなら心配ないな、そう呟くと振り返ったその手から巾着が飛んできた