第30章 もう間違えない
「めぐチャン!着物姿も超Ohhh・・!」
「可愛いだろ」
遮った俺が呟いた途端、気味の悪いものでも見たかのように顔を顰めた山田が身を屈め彼女に耳打ちをした
「・・正月から個性事故にでも遭ったカンジ?」
「っふふ!」
「うるせぇな、帰れ」
今日の相澤くん少し変なの、なんて彼女が余計な事を言うもんだから山田は訝しげに俺を見つめる
「めぐが九州行った時、コイツ居酒屋で」
「マイク、死にたいか」
「・・本物だなァ、よし」
居酒屋でなぁに?、丸い目がぱちぱちと瞬きをしながらこちらを見上げて、俺は思い切り山田を睨みつけた
すれ違う人波には鮮やかな着物の色が溢れ、時折聞こえる鈴の音
賑わう露店から漂った甘酒の香りに目を輝かせた彼女が俺の腕を引いた時、そんな穏やかな雰囲気を壊す悲鳴のような音が遠くで聞こえた
「!マイク、行くぞ」
「居るんだよなァ、テンション上がっちまう奴」
ゴーグルを身につけ視線を遣ると彼女は甘酒片手に胸の前で拳を握って
凛々しく頷いたその顔に思わず小さく吹き出すと、巾着をその手へと戻した
「いってらっしゃい!」
「おう」
人の流れとは真逆、悲鳴のした方向へと通りを駆ける
人の集まる場所では必ずと言っていいほど起こる窃盗や委細巨細、今日も例外では無いようだ
「クソ、この人混みじゃあなァ・・」
個性ぶっ放すワケにもいかねぇ、そう溜息をつく山田を横目に俺は速度を上げる
屋根の上から状況を確認すると案の定ひったくりか何かの類、喧騒の中を走り抜けていく輩を視界に捉えた
「遅い」
「オマエみたいに空跳べねェの!」
秒で片付けたワケね、汗を拭いへらりと笑った山田が縛り付けた二人組の前に屈む
呻く男たちを路上に転がし警察に電話を掛けたところに山田が姿を現すまで二分半
「ええ、あ、はい、身柄の引渡しはプレゼントマイクが」
「ハァ!?オレェ!?」
「わかりました、伝えます」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ声を無視し電話を切る
目配せをすると、面白く無さそうに尖っていた口がにやにやと弧を描いた
「数分で到着するそうだ、後は頼む」
「ま、長引くと心配かけるもんなァ?」
「・・今それは関係ない」
相変わらずお熱いコトで、呆れたように笑う山田の声を背に足早に人混みへと飛び込んだ