第30章 もう間違えない
緩く結われた髪、肩に羽織った白いショールが朝日に輝いて
冷たく澄んだ空気に触れた彼女の鼻先は赤く染まっている
「・・相澤くんも着物がよかったなぁ」
「男が着たって仕方ないだろ」
両手を捕縛布に突っ込んで息を吐いた俺を見上げると、彼女が残念そうに呟いた
「それに今日は、仕事みたいなモンだ」
「ふふ、そうでした」
大晦日と元旦は帰省する生徒たちの護衛として過ごし、年が明けて数日、やっとのことで彼女との時間が取れたこの日
とは言っても初詣客で賑わう境内のパトロールを兼ねている
「ヒーローにお正月休みは無し、肝に銘じておきます」
「これが終わったら昼から休みだろ、ヤるぞ」
にやりと笑えば丸い目が予想通りの角度で吊り上がった
「それより先に言うことがあるでしょ・・!」
「ああ、あけましておめでとう、今年もよろしくね」
数日ぶりに会えたのに!、呆れた彼女が顔を顰めて
数日ぶりに会えたからだろ、冷えたその指先を掌で包むと彼女は複雑そうに微笑んで下を向いた
「すごい人だね・・!」
お祭りみたいで楽しいなぁ、にっこりと笑った彼女の息が雲のように白く浮かんでは消える
「随分と歩き辛そうだな、転ぶなよ」
「もう、すぐそういう事言うんだから!」
膨れた彼女は繋いでいた手を離すと軽く腕を絡ませて
これで大丈夫でしょ、そう言ってゆっくりと歩き出した
目線を下げると視界に入る上品なその色、
きらきらと輝く刺繍は雑踏の中でも彼女を特別に美しく魅せて
「綺麗だな、似合ってる」
俺だって言おうと思えばこれ位言える、あの日最後まで言えなかった自分に見せつけるように零した言葉は、思っていたよりも気分を良くさせた
「今日はすぐ言ってくれるんだね、嬉しい」
「・・何のことだか」
「相澤くんもいつもの服、すごい似合ってるよ」
くすくすと笑う横顔に溜息をついて彼女の荷物に手を伸ばす
微笑んで礼を言った彼女が幸せそうに俺の腕を抱き寄せた時、背後から馬鹿でかい声が耳を劈いた
「ヘイヘイヘイ!お二人サァーーン!!」
「「・・・」」
「新年早々ムシ!?そりゃ無いぜェ!」
凄まじい速さで追い付いた山田が馴れ馴れしく彼女の肩に触れる
振り向いて即座にその手を払うと心底楽しそうに細められた目が下から上に、彼女の姿をまじまじと見つめた