第4章 ビタミン剤なんかよりよっぽど
「・・悪い、嫌な言い方をした」
「そ、そんなことないよ、
忙しいのに昨日はありがとう!
私こそ嫌な思いさせて、ごめんね」
声こそ明るく振る舞っているがその目は下を向いたまま、今繋ぎ止めないとこのまま距離を置かれてしまうと直感する
「・・今日、何か予定あるか」
「あ、うん・・まだ足りない雑貨があって買い物に」
数駅先にショッピングモールがあるって聞いたから、と彼女が言った
「それ、俺も行っていいか?荷物持ちくらいにはなるよ」
近くにいるのに触れられない、このもどかしさがまるでバルコニー越しの距離そのままで
「ううん、気を遣わなくて大丈夫だから!
本当に本当に気にしないで」
「・・頼む、お前と過ごしたい」
十年前は無理だったかもしれないが
この程度の距離、今は余裕で跳べてしまう
だからごめんな、諦められない
必ずお前を捕まえにいく
酔い醒ましもやっぱり貰っていいか、そう聞くと彼女は泣きそうな顔をして「ありがとう」と言った
お前がその男をどれだけ愛しているかなんて知りたくもない
今みたいにずっと
俺だけをその目に写しててくれ
———
「これで全部か」
両手の荷物をあげて彼が尋ねる
浮き足立っていることを悟られないように私は意識的に眉を下げた
「結局全部持ってもらっちゃってごめんね」
「好きでやってる、気にするな」
今日の相澤くんは少し変だ
お前と過ごしたい、なんて言われたらますます意識してしまう
新しく買ったワンピースまでおろしてお洒落して、本当馬鹿みたいだ
元はと言えば不要なお節介をした私のせい
相澤くんにとってはただの罪滅ぼしで
彼が誰より律儀で優しいことくらい、よく知っているでしょう
「どっかで休憩するか、喉渇いただろ」
「そうだね、お腹も空いたし甘いものでも食べよっか!」
微笑んだその横顔が優しくて
一緒に居られるだけで充分、か
自分で言った言葉なのに、涙が出そうだ
——-
今日の彼女は少し違う
校内で会う時と異なる雰囲気のせいか
淡い色のワンピース、耳に揺れるピアス
その男と会う時はこんな恰好なのか
そのアクセサリーはそいつから貰ったのか
彼女の魅力が引き立つほど、俺じゃない誰かの為に着飾るのを見せつけられているようで腹の底に黒いものが溜まっていく