第29章 木天蓼はおあずけ
「なんだ、普通のお部屋、だね・・!」
「そりゃそうだろ」
出張時に泊まる部屋と変わらない、白い壁に白いシーツ、紺のソファも象牙色のカーペットも普通、とても普通だ
「風呂も入れるし仮眠もできる、悪くないだろ」
濡れた服も乾かせるしな、言いながらコートをハンガーに掛けた相澤くんは次々と服を脱いで
「お前、風呂は?」
「お先にどうぞ・・!」
「あ、そう」
かちゃかちゃとベルトに手を掛けながら脱衣所へと消えて行く
一緒に入るか、振り返り様にかけられた声に全力で遠慮をすると彼は呆れたように笑った
氷のような浴室の床、やはり俺が先に入って正解だったと手っ取り早くシャワーの温度を上げる
冷えた彼女を一秒でも早く温めてやりたくて、ラベルもまともに見ず並んだボトルの頭を押した
置かれたバスローブを羽織り部屋に戻ると
ざっと見回した空間に一瞬彼女の姿が無いように見えて、俺は頭を拭く手を止める
ベッドの足元、床にしゃがんだ彼女は棚の扉を開けたまま固まって
できるだけそっと近付くとその目の前には所謂
”そういう”玩具の販売機が置かれていた
「へえ、お前そういう趣味か」
「わっ!え!?いや、違っ、!」
飛び上がるように立ち上がった彼女がわたわたと慌てて、湯気が出そうなほど紅く染まったその顔はもうシャワーで温まる必要は無いかもしれない
「お風呂上がりにお水飲むかな、って探してて!
冷蔵庫かと思って・・!」
「へえ」
「、本当に!本当だよ!?」
髪を拭きながら隣の冷蔵庫を開けると、気まずそうに瞬きを繰り返した彼女が足早に浴室へと消える
数分後、ほかほかとバスローブを纏ってすっかりご機嫌になったその単純さに俺はまた肩を震わせた
「さて、何して遊ぼうか」
「え、あ、テレビでも観る・・?」
今更何の恥じらいがあるのか甚だ疑問だが、狼狽えるこいつを見るのは嫌いじゃない
ベッドの上、枕元のリモコンを慌てて押した彼女が運悪く遭遇したのはかなり激しめの”そういう”チャンネル、突然部屋に響き渡った男女の声にその目が大きく見開かれた
「これを一緒に観るのか、いいよ」
「・・!や、やっぱり、消すね!」
普通の番組もやってるぞ、笑いを飲み込んでそう親切に助言しても、全く信用していない目で彼女は俺を睨みつけて
全く、八つ当たりもいいとこだ