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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第29章 木天蓼はおあずけ



ひと気の無い空間には大きな液晶パネル、それぞれ特徴的な部屋がずらりとそこに映し出されている
初めて足を踏み入れたこの雰囲気に年甲斐もなく狼狽える私を相澤くんは可笑しそうに眺めた


「どれがいい」

「どこでも、大丈夫です・・!」

「あ、そう」


迷いなく彼が選んだのはシンプルな部屋
赤やピンク、派手な壁紙の部屋じゃなくてよかったと理由は上手く言えないけれどほっとしている自分が居る

そうして息をついたのも束の間、背後から突然人の声と鍵を差し出す音が聞こえ、驚きに叫びそうになった口を私は両手で押さえた


「お前本当に初めてなんだな、いいね」

「気持ち悪い言い方しないで・・!」

相澤くんはなんだか慣れてて嫌だ、あたふたしている自分が情けなくて彼を睨み付けると、その口元が楽しげに弧を描いた


「んじゃ色々教えてやるか」

「け、結構です・・!」

「エレベーターに乗ったら階のボタンを押してだな、」

「最悪!すごい馬鹿にしてる!」

くつくつと喉を鳴らした彼が肩を震わせて、5と書かれたボタンに触れるとそれが橙色に光る




「んで、ドアが閉まったらこうだよ」

穏やかな声が響いた次の瞬間、エレベーター内の壁に強く押し付けられた身体
荒々しく重ねられた唇は何度も角度を変え、熱い舌が味わうように私を捕まえると音を立てて絡めては離れる


「お預け、寂しかっただろ」

「こん、な所で・・!」

「こういうルールだ、覚えとけ」

「嘘つき!」

到着を告げる音声が控えめに鳴る
手の甲で軽く口元を拭った彼は「開」のボタンを光らせて、熱い顔を誤魔化すように顰めっ面をした私をまたにやにやと眺めた


「歩けるか」

「だ、誰のせいで・・っ」

「すげえ好い、って顔してたけどな」

揶揄われているのが腹立たしくて足音を響かせエレベーターを降りると、思っていたよりも薄暗い廊下

一瞬足のすくんだ私を安心させるように回された腕が優しくて、その手付きに私はまた悔しくなった


「楽しそうで何より」

「それは相澤くんでしょ・・!」

「まぁな、否定はしない」


何を今更、相澤くんの言う通りだ、背筋を伸ばして精一杯の澄まし顔を作る
背中に刺さる視線は言い表しようのない無言の圧力があって、彼が野良猫ちゃんたちに好かれない理由が少しわかった気がした

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