第29章 木天蓼はおあずけ
少しだけ落とした照明、肌蹴たガウンから覗く脚に触れると彼女が恥ずかしそうに俯いて
口付けようとこちらを向かせた瞳の中に薄暗い部屋の灯りが揺れた
「そんな期待した目で見られちゃ、堪んないね」
「き、期待なんか・・っ」
頬に一つ、唇の横に一つ、軽い感触を落とすとその眉が僅かに下がって
場所なんて関係ない、漸く見られたいつも通りの溶けた顔に無意識に口元が緩みそうになる
ここで溺れるのは簡単、我慢するのは比較的得意だろうと自制して
物欲しそうな唇を軽く啄むと彼女の身体をゆっくりと倒し、その隣に自らも横になった
「二時間くらい寝るか」
「え、・・?」
「朝も無理させたからな、”休憩”したいだろ?」
恥じらいが邪魔して素直になれない彼女が紅い顔を悔しそうに歪める、思った通りの反応が愛おしい
「そ、そうだね、疲れたし!」
「期待したか?」
お前がその気なら付き合うよ、揶揄うように覗き込むと眉を顰めた彼女はくるりと俺に背を向けた
「・・おやすみ!」
すり、と滑らかな足の甲が遠慮がちに俺を擽る
思わず上がった口の端を下げ薄目を開けると、下唇を噛んだ彼女がもじもじと俺を見つめた
「相澤くん、寝ちゃった・・?」
「ああ」
「起きてるじゃない・・!」
俺の髪を耳にかける細い指は彼女なりの精一杯のお誘い、構うと逃げて行くくせに突き放すと擦り寄って
猫みたいなのはどっちだよ、思わず苦笑が漏れる
「今の内に寝ておけ、夜は寝られないぞ」
「もう!勝手なんだから!」
「悪かったな、夜行性で」
お前もたまには悶々とすればいい、意地の悪いそんな言葉を飲み込んで抱き寄せると彼女はまた期待したように肌を染めて
その困り果てた顔が堪らなく好きだなんて
ヒーローが聞いて呆れる、幼稚な自分に溜息が零れた
「ヤリたくて堪んないんだろ、いい顔だ」
薄い布の上から焦らすように背中をなぞると甘い吐息が俺を誘う、容易くぐらつきそうになる心に何とか蓋をして
「こんなの、ひどい」
夜絶対相手してあげないから、涙目で睨んだ彼女が両手で布団を引っ張り上げた
「お預けもいいだろ、後が盛り上がる」
聞くや否や、ばたばたと抗議の意を表した脚に思わず吹き出して
長く甘い夜に備え英気を養うため、熱の篭ったその身体を抱き寄せると俺は構わず目を閉じた