第29章 木天蓼はおあずけ
「ねこ、の瞳」
「声に出すな」
まぁるい字体で”猫カフェ”と書かれたその裏側には沢山のハートマークが並んでいて
押されるのを待っている次の猫型には「26」という文字が薄っすらと見える
「ふ、ふふ・・!」
漏れた笑いにすっかり気を悪くした彼は強引にそれを奪い取って、財布ごと放り投げるとソファにその身体を沈めた
「ふ、笑ってごめん、!」
「許さない」
「だって25回って、」
常連も常連だね、言いかけた言葉を遮るように強く引かれた腕、いつもより荒く私を押さえ込んだ彼が眉間に皺を寄せる
ご機嫌を取ろうとその顔に唇を近づけると、ふい、と顔を背けられてしまった
口付けを省いて早々と服の中を這う手は彼なりの仕返しなのかもしれない、そう思うと険しいその表情も可愛く思えて
なんだかまるで
「、猫みたい」
エリちゃんに触れるような手付きでよしよしと頭を撫でると、いよいよ本気の目になった相澤くんが不敵な笑みを浮かべて
後悔先に立たず、どうして私は学習しないのだろうと額の冷や汗を拭った
「んじゃ、俺が引っ掻いたり」
「ひ、ゃあ・・っ!」
「噛み付いたりしても、許せよ」
飼い主っていうより獲物だな、耳元で低く笑った彼が私の背中を爪でなぞると身体中が痺れて
ああ、完全に怒らせてしまった、前言撤回など許してくれるはずのない凶暴な目に熱が宿るのを眺めながら、私は口付けをせがむ
「お預けだ、まだしない」
落ちた肩紐を上げてくれるその手付きは、先ほどまでの激しさを全く感じさせない
甘さと獰猛さの二面性、やっぱり猫みたい、間違っても口から零れないように静かに見上げると、彼はお決まりの台詞を紡いだ
「身体、大丈夫か」
「大丈夫じゃないし、もうお昼・・」
せっかくのお休みなのに、そう膨れた私の頬をすりすりと指の背で撫でると相澤くんは満足気に口角を上げる
「今から行こうよ、26回目」
「、何でそうなる」
「猫ちゃんに会いたいもん」
“お友達を連れて来てくれたら+1ポイント”
カードにそう書いてあったよ、私の言葉に彼の眉がぴくりと上がって
「まぁ、買い物ついでに寄るなら悪くない」
「ふふ、何か買うの?」
「・・まだ足りないみたいだな、来い」
掴まれかけた手首を間一髪のところで振り解いて、懲りない私は獲物らしくそこから逃げ出した