第29章 木天蓼はおあずけ
白を基調とした家具に淡い色のクッション、木の温もりに包まれた室内を優しい照明がきらきらと照らす
まるでヨーロッパの女の子のお部屋みたいだ、ゆっくりと辺りを見回した私は目線を前に戻すと大きく吹き出した
「ふふ、あははは・・っ!」
「・・・」
淡い色に全く溶け込む気の無い黒、見慣れた服に身を包んだ彼は思い切り私を睨みつけ、居心地悪そうにコーヒーを口に運んだ
「私のことは気にせず、いつも通り遊んでおいでね」
「はぁ、お気遣いどうも」
壁際の棚から拝借した細い棒を目の前でゆらゆらと揺らすと、軽く舌打ちをした彼の膝に早速それは近寄って
居心地が悪いわけがない、
もう25回も来ているのだから
一瞬にして緩んだその顔、愛おしそうに見つめる目や優しい指先は思わず嫉妬してしまいそうなほどに甘い
写真撮ったら怒られるかな、私は笑いを堪えながら今朝のことを思い返していた
「なに、これ?」
落とした拍子に散らばった数枚のカード、
その中で一際目を引いた桃色の一枚に手を伸ばす
何かのポイントカードらしいそれには小さなハートのスタンプが数え切れないほど押されていて
「な、・・んでもない」
財布を拾い上げた彼が見たこともないような慌て方をして、私よりも先にそれを掴み取った
「え、なんか怪しい!」
「あやしくない」
「じゃあ、それ見せて」
「断る」
決して目を合わせようとしないまま、相澤くんは驚くほど素早くそれらを仕舞っていく
ピンクのカードにハートのスタンプ・・
彼の所持品として違和感のありすぎるそれは、私を不安な気持ちにさせるには充分だった
「もしかしてメイド喫・・」
「違うよ」
あんなにファンシーなカード、思い付くのはそれくらいだ
以前学生証を探して財布の中身を広げた峰田くんが持っていた、あれに限りなく近い気がしてくる
いや、間髪入れずに否定する様子から考えるともっと如何わしいお店の物かもしれない
「・・相澤くん、わたし、泣きそう」
逸らされたままの目を真っ直ぐに見つめ声を出すと、部屋に響き渡るほどの溜息をついた彼がガシガシと頭を掻いた
「、それはずるいだろ」
お前が不安になるようなモンじゃないよ、そう呟いた相澤くんは観念したように例のカードを抜き取ると、低い位置で嫌そうにそれを差し出した