第28章 応援なんかいらない《後編》
重ねた肌の余韻が残るまま、腕の中の甘い吐息が寝息に変わるその瞬間、柔い肌に歯を立てる
「ひぁ・・っ!」
「そろそろ起きた方がいいんじゃないか」
枕元の時計を手に取りその顔に近付けると、蕩けていた目が大きく見開いた
「ほ、本当に一睡も・・」
悔しそうに噛んだ唇の隙間からすぐに欠伸が漏れて、ゆらゆらと揺れた身体がこちらに凭れ掛かる
幾つか新しく咲かせた紅い華が白い肌に浮かんでいるのが見えると、それはこの上なく俺を満足させた
「・・相澤くんが拗ねると、大変」
「拗ねてない」
「男子生徒と話してるだけで不機嫌になる」
「なってない」
減らない口を塞いで舌を絡めるとまだ夜の中にいる彼女は目を潤ませて
甘い唇は必死に愛を受け止め、その腕が俺の首に回るとくしゃりと髪を掴んだ
「なんだ、誘ってんのか」
「シすぎて、もう、わかんない・・」
「へえ、可愛いこと言うね」
堪らなくなって組み敷いた彼女を見下ろし
このまま夜に閉じ込めておけたらいいのに、そんな言葉が
まさかそのまま口を衝いて出るとは
「・・相澤くん、それヴィランの発想だよ」
驚いた彼女が瞬きを繰り返してくすくすと笑う
まだ行かせまいと絡み付いていた夜が朝に負けていくようで、すっかり目を覚ましたその顔に舌打ちをした
「へいへい、ヒーロー頑張りますよ」
「ふふ、応援しています」
少し早いけどコーヒー淹れるね、そう微笑んだ彼女が身体を起こす
お前は朝が好きだよな、今度はちゃんと心の中で悪態をついて
愛しい背中に口付けを落とし腿に手を這わせるとその身体が跳ねた
「ちょ、っと・・!」
「・・応援なんかいらねぇよ」
前も言ったはずだ、そう言って首筋を吸い上げると大きく目を開いた彼女があの日のように頬を染める
「それで拗ねてたんだ・・」
「拗ねてない」
「でも相澤くんがいらないなら、」
「他の奴に向けていいとは言ってない」
遮り睨み付けると、呑気な丸い目がふにゃりと細められて
その顔を崩したい俺は、彼女を包む布団を力任せに引っ張った
「もう朝だから、だめ、っ」
そんな弱い言葉で俺が諦めると思っているのか、必死にシーツを手繰り寄せた彼女が枕を構えて
それ久しぶりに見たな、と笑いを噛み殺し渾身の二発を避けると、その肩をゆっくりと沈めた
「暗いだろ、まだ夜だよ」