第28章 応援なんかいらない《後編》
俺相手にそれで気配を消しているつもりか、舐められたもんだ、液晶画面に目を向けたまま大きな溜息をつくと背後で彼女が硬直する
肘をつき無言のまま指で合図すると甘い香りがふわりと近寄って
今日はこれで仕舞いだな、手際よくパソコンの電源を切ると息を飲む音が聞こえた
「申し開きがあれば、どうぞ」
「や、やましい話はしておりません・・」
「当然だ」
くるりと椅子を回転させその腰を引き寄せる
バランスを崩した彼女は倒れ込むようにして俺の腕の中におさまった
「彼も私も、イレイザーヘッドの大ファンで」
「知ってるよ」
抓った指を離すと、恨めしそうに俺を睨んで頬を摩る
間抜けなその顔に思わず緩んだ口を意識的に下げると、それに気が付いたのか、ぱちりと瞬きをした彼女の目が幸せそうに下がった
「個性のタイプも近く、武器の使い方も教えてる
アイツが俺を意識するのはまぁ、無理もない」
「一番格好いいしね」
「その手には乗らない」
どうやって泣かせてやろうかと先程まで考えていたのに、呆気なく毒気を抜かれる自分が情けない
次はもっと見えやすい場所がいいか、肩に付いた噛み跡をなぞってそう囁くと彼女は紅い顔で眉を顰めた
「相澤くんに近付きたくて、学生時代の話を聞かせて欲しいって」
「ほう」
「すごい背筋正して座るんだよ、ふふ」
一生懸命だから応援したくなっちゃうの、そう笑った彼女が俺の髪を耳に掛ける
確信犯の甘い手付きに惑わされないよう自制しながらその手首を捕まえると彼女はまたぱちぱちと瞬きをした
「・・応援、へえ、応援ね」
「え、何、怖い、手痛い・・」
たった二文字にあの春の日が重なるなんて、我ながら馬鹿馬鹿しい
目の前の彼女は真っ赤な顔で目を潤ませるどころか、捕まった手を離そうと逞しく捥きながら俺を睨み付けて
「・・純粋で可愛かった、確かにな」
「なんの、こと」
「場所を変えよう、覚悟はできてるんだろ」
紅く染まると読んだその顔は、俺の予想に反して青く変わって
思わず小さく吹き出した俺を不服そうに見上げるとちゅ、と音を立てて口付けを落とした
「イレイザー、これで許して?」
「明日朝早いんだったな、同情するよ」