第27章 応援なんかいらない《前編》
「何でもいいんです、本当に何でも」
イレイザーは極端に情報が少ないから、そう言って下を向いた彼は少しだけ耳を赤くしている
ふと、先日オールマイトの事を鼻息荒く語っていた緑谷くんを思い出す
確かこの部屋に置かれていたオールマイトのグッズを見て火が付いたんだっけ・・
メディア露出を極端に嫌うイレイザーヘッドの情報の少なさは、十年こそこそとそれを求めていた私が一番痛感している所でもあった
「少ないよね、ほんと」
思わず同情して苦笑すると、彼は不思議そうに私を見つめた
———
「大した傷じゃないが、念のため保健室行くぞ」
「え」
校舎へ向け踏み出した足を止め振り返ると、不思議そうに眉を顰めた心操が瞬きを二度繰り返す
「行け、じゃなくてですか」
自分と同じ位表情の読めない口から飛び出したその言葉に、柄にもなく慌てた俺は捕縛布に口元を埋めた
「その、あれだ、丁度俺も用事があってな」
「・・イレイザー、案外わかりやすいんですね」
意外な一面を見たとでも言うようににやりと笑ったその顔、俺は隠す気もなく悪態をついた
「・・心操、明日のメニュー倍な」
「大人げないですよ」
さっさと行くぞ、そう言って歩き出そうとした俺を心操がまた引き留めて
汗を拭った手はそのまま鞄を漁ると古びたノートを取り出した
「・・軽い傷は自分で手当て出来る様に、って」
そう言われてこれを貰ったので、今日は自分でやります
目線を落とした心操がぱさりとそのノートを開く
久しく目にしていない、だがあまりにも見慣れたそれに身体中が熱くなるのを感じた
「お前、それ・・」
「見覚えありますか」
「あ、ああ、まぁな」
「それは・・嬉しいです、すごく」
言葉の通り細められたその目に俺は一体どのように映っているのだろうか、想像するだけで居心地が悪い
「あいつから貰ったのか」
「もう使わないから、って」
「・・そうか」
綺麗な文字と分かりやすいイラストで解説された簡単な応急手当の要領
当時テーピングすらまともにできなかった俺のためにと、彼女が作成した一冊だった
俺が貰ったのはコピーだったのに、と疾うの昔に捨ててしまったそれに思いを馳せつつ、どうにかして触れたい衝動を必死に抑えるように両手をポケットに突っ込んだ