第27章 応援なんかいらない《前編》
窓の外で木々が揺れる
もう殆ど葉の残っていないそれらがガサガサと鳴り、時折聞こえる隙間風の音
ひび割れた肌にうっすらと血の滲んだその手が懐かしい記憶と重なって、私はこれでもかと軟膏剤を塗り込んだ
「似て、ますか」
落ち着かない様子の彼がこちらを見て数秒、すぐに逸らされた視線は赤くなった目元を隠すように床を見つめている
「うーん、どうだろう?」
「・・似てるって言われる方が嬉しいです」
マイク先生にはそう言われました、その時のことを思い出したのか目の前の口角が僅かに上がった
初々しくて”青い”彼と話すこの時間が密かな楽しみになりつつあるなんて、私は香山さんと居すぎただろうか
「ふふ、そういう素直な所は似てないかも」
「・・想像はつきます」
「でも相澤先生も、同じ所に血豆ができてたよ」
そう言って私が笑うと、目を見開いた彼の顔がぱぁっと輝く
素直で真っ直ぐ、愛しいあの人を慕っている彼が私は可愛くて堪らない、やはり香山さんと居すぎたのかもしれない
「・・血豆の場所まで覚えてるって、ベタ惚れですね」
全然想像つかないな、窺うように向けられた視線を避けるように立ち上がると彼は微かに笑った
「昔もこうやって手当てしてたんですか」
「・・練習台だっただけ」
本当は練習台どころか、相澤くんを上手に手当て出来るようにと買い漁った参考書は今も部屋の本棚で眠っている
薬品を棚に戻し振り返ると、彼は真新しい捕縛布を大切そうに手入れしていた
「心操くん、何か飲む?」
「え、いいんですか」
「うん、もう帰るだけだから」
ありがとうございます、そう静かに呟いた彼はあれこれと考える顔をしていて、素直なその反応に心がぽかぽかするのを感じながら私はとっておきの紅茶の缶を手にする
「私に、聞きたいことがあるんでしょう?」
「そんなに分かりやすいですか俺・・」
さすがイレイザーの奥さんですね、なんて
首に手を当て気まずそうに目を伏せた彼に思わず吹き出して、湯気の立つカップを手渡した
「ふふ、本人に聞けばいいのに」
「それ本気で言ってます?」
眉を寄せた彼がじろりと私を睨んで、不機嫌な顔で紅茶を啜る
「あはは!そういう言い方はすごく似てる」
笑いながら向いに座った私を彼はまた睨んで、黙ってマグカップを口元へ運んだ