第26章 あなたの風邪は何処から
「最近、やけに仲のいい生徒がいるみたいだな」
怖いくらいに優しく発されたその声にぎくりとした私を、相澤くんが乱暴にベッドへと降ろした
「さ、ゆっくり話そうか」
「なんの、ことでしょう・・」
「俺が勘づいていないとでも?」
ギシ、と音を立てて覆い被さった彼が今度こそボタンを外していく
「あ、そう、そうね、
八百万さんとは紅茶の趣味が合うから・・」
「へえ」
シラを切るとは良い度胸だ、そう囁くと彼は私の耳に歯を立てて
鬱陶しそうに額の冷却シートを剥がすとそれを床に投げ捨てた
「保健室には色んな子が来る、し」
「1A以外で思い当たる奴は」
「一学年11クラスもあるからなぁ・・」
もごもごと言い訳をする私を鋭い視線が射抜く
祈るように山田くんの声を待つけれど今回はその助けも来ない、今頃もうアレを飲まされているかもしれない
「ゆっくり思い出すといい」
笑みを浮かべた相澤くんは短く息を吐くと私の肩に甘く噛み付いて、うっすらと紅くなったその上を熱い舌が擽る
「や・・っ、噛ま、ないで・・!」
薄い部分だけを的確に、そして痛みと快感が同時に襲うよう確実に、私を追い詰めていく
「今日の昼も、親身に相談に乗っていたとか」
さすが薬師先生、鼻先の触れる距離で囁いた彼が躊躇なく私の呼吸を奪って
すでに充分すぎるほど熱を帯びた身体はどうしようもなく彼が欲しくなる
「病人相手にヤる気になったか」
悔しくて睨み付けた筈の視界がゆらりと暈ける
精一杯の悪態をついたって、彼の余裕は崩れない
「・・こんなに手の掛かる患者さん初めて」
「当たり前だ、他に居てたまるか」
彼の手に引かれるまま、その額に触れる
一時的に下がった体温は薬のおかげだと自分に言い聞かせて
その直後に流れ込んできた情報に、熱くなった顔を伏せた
「おい、そんなとこまで診るなよ」
やらしーな、そう笑った相澤くんは私の手を取ると今度は自らの服の中に誘って、その肌に指先が触れると悩まし気に眉根を寄せた
「治してくれるんだろ、先生」
相手は病人、相手は病人、私が必死に踏み続けているブレーキを彼は一瞬で壊して
粉々になった自制心の欠片を拾い集め、何の言い訳にもならない言葉を紡ぐ私を愛おしそうに眺めた
「私が、するから・・、相澤くんは安静にしてて」