第26章 あなたの風邪は何処から
「山田くん、やっぱり、ごめんなさい・・!」
「めぐ・・、めぐチャン・・」
勝ち誇ったように笑った相澤くんを山田くんが睨み付けた時、後ろから噂の人物が姿を見せる
「何やってるのよマイク!始めるわよ!」
眉を寄せた香山さんがこちらに近付くと、相澤くんの額と私を抱き絞める腕を交互に見つめた
「とうとう仮病まで使うようになったのね・・」
「言いがかりはやめてください」
「あら、ポカリじゃ治らなくなった?」
本当に口癖だったんだ、と私が笑いを零すと相澤くんの腕にまた力が入る
やれやれと溜息をついた香山さんが憐れみの視線を私に投げかけた
「イレイザー、貴方いい加減にしないと・・」
「俺は何も言ってませんよ」
「その手は言ってんのと同じだろォが!」
山田くんの叫びを華麗に無視した彼が黙って部屋のドアを閉め、引き摺られていくその声を聞きながら満足そうに囁いた
「大人しく、安静にするよ」
機嫌良くパソコンを閉じた相澤くんは、林檎の皮を剥く私の背中を抱き締めて
薬も効いてきたのか、触れた肌の温度も落ち着いてきている
「あ、酔い醒まし作らなきゃ、」
無意識に口から漏れた独り言、慌てて後ろを振り返った時にはすでに手遅れ、その眉間にはくっきりと皺が寄っていた
「妬かせるのがそんなに楽しいか」
「やっ、ちが・・っ」
むっとした表情のまま私の服に手を入れると器用に素肌へと辿り着く
髪を避け首筋を滑った唇はまだ少しだけ熱い
「もう!病人は大人しく寝てて・・っ!」
「へえ、今日はお前が動いてくれるのか」
それは楽しみだね、なんて意地悪に笑った顔を睨み付け、大きいままの林檎をその口に押し込んだ
山田くんの言う通り、彼は全然病人らしくない
今更気付いてももう遅くて、林檎味の口付けに蕩けていく
「はぁ・・っ、本当に、移す気でしょう・・!」
「最初からそう言ってる」
相澤くんの何倍も私の方がふらふらして足元がおぼつかない、絡んだ甘い舌が頭を痺れさせて
「まぁ、百歩譲って山田は良しとしよう」
「譲ってこれですか・・」
「なんだ、足りないか」
力が入らなくて床にへたり込む寸前、ひょい、と私を抱き上げた彼は軽い足取りで寝室へと向かった
「どっちが病人なんだか」