第26章 あなたの風邪は何処から
探しているのは見慣れたブーツ、この時間帯には此処にある筈のそれに首を傾げると静かに玄関のドアが開いた
「ただいま」
汗を拭きながら微かに笑った彼が浴室へと向かって、思わず私は部屋の時計を確認する
「今日は早いんだね・・」
「ああ」
5時半、まだ暗闇に包まれている外の空気が玄関から入り込んで、私は身震いをした
「起きてたのか」
「あの、もしかして、応援要請・・、?」
昨晩私が呆気なく自制心を手放してしまったせいで、本調子ではない彼をそのまま任務に向かわせてしまったのだと思うと後悔で泣きたくなる
「ごめんなさい・・、私、」
「勘違いするな、要請じゃない」
走ってきただけだよ、ぽんぽんと頭を撫でた相澤くんが笑いを堪えて捕縛布を外した
「え」
「鈍るからな」
「し、信じらんない・・!」
氷のように冷たい手が私を抱き寄せると「そう言うと思ったよ」と彼が肩を震わせ笑う
指先と同じように冷え切った唇は私のそれと溶け合って、甘い温度に変わっていった
「お前こそ、身体大丈夫か」
「それはどっちの意味ですか・・」
「どっちもだよ」
私がするから安静にしてて、なんて決意表明は案の定何の役にも立たなくて
いつも通り何度も満たされ、夜更けまで甘やかされてしまった自分が情け無い
「全然、大丈夫じゃないです・・」
少なくとも酔い醒ましを作る気力は湧かないよ、そう言って睨むと彼は満足そうにその目を細めた
「で、いつまでここに居るんだ、一緒に入るのか」
「そんなわけ・・っ」
「どうせ浴びるんだろ、もう一回付き合えよ」
甘えるように注ぎ込まれたその声は、まだ余韻の残る私の身体をいとも簡単に熱くしていく
「あと一時間でもいいから、寝てよ・・」
「お前を抱くか、仕事に行くか、」
「だからその二択はダメだって!」
体力どうなってるの・・、そんな心の叫びも虚しく、結局私は彼の誘うまま浴室でもはしたない声をあげて
首元に残る紅い痕をセーターで隠し、よろよろと辿り着いたキッチン
喉に感じた確かな痛みに、私は力の入らない手を蜂蜜の瓶へと伸ばした