第25章 反撃は二人だけの夜に
「すっごく過保護!他の男の人と仲良くするとすぐ怒る」
「・・おい、マジのやつじゃねぇか」
甘い雰囲気の中「もっと愛の言葉が欲しい」とでも言われるかと、それをどう満たしてやろうかと
緩みきった脳内に響いた、彼女からのリアルな駄目出し
「九州以来、一人で買い物にも行かせてくれないし」
「・・次は無いって言ったろ」
「たまには一人で出掛けたいの!」
向かい合ってその細い腕を俺に絡める彼女は、厳しい言葉と甘い行動がまるで一致していない
しかし真っ直ぐに見つめるその瞳は、しっかりと俺を見据えていて
ちゃんと、俺に文句を言っている
「廊下で男子生徒と話してるだけで不機嫌になるし」
「・・なってない」
「そういう日の夜は、やめてって言っても意地悪をやめてくれない」
まぁそれはそうかもしれない、無自覚という訳ではない痛い所を突かれ思わず口籠った
「一度電話に出ないと、何度も何度もかけてきて」
そういう日の夜は、と今聞いたばかりの文言が繰り返される
「いくらお願いしても、お昼ご飯を食べない」
への字に曲げられた紅い唇に口付けたくても、とてもじゃないがそんな雰囲気ではなくて
すらすらと述べられる不満に驚きつつ、指摘される度自分の小ささに頭痛がしてきた
「何日も徹夜で仕事するし」
自分を全然大事にしてくれない、小さく呟いた声が静寂に溶けると、その目の端に光るものが浮かんで
「お、おい、泣くなよ」
私ってそんなに信用ないかな、そう紡いだ唇が少しだけ震える
ぽろりと零れた一粒に唇を寄せると、自然と言葉が溢れ出た
「わかったから泣くな、」
悪かったよ、そう言って肩を抱き寄せると聞こえた鼻を啜る音
それが鼓膜を揺らすと、決して激しくはないが落ち着かないリズムを心臓が奏でた
「自分を大事にしないのは、相澤くんを大切に想う私の気持ちが届いていないから、」
「めぐ、」
「呼ばないで、怒ってるの」
胸の奥が掴まれるような感覚と彼女の台詞が相まって、数ヶ月前の記憶と重なる
「めぐ、悪かった、愛してる」
なぁ、機嫌直してくれ、必死なその声は我ながら情け無いもので
くたりと寄りかかった彼女を抱き締めて数分、聞こえてきたのは穏やかな呼吸音
すーすーと寝息を立てる細い肩に顔を埋め、甘い香りを肺いっぱいに吸い込んだ