第25章 反撃は二人だけの夜に
共用スペースに戻ると、焦点の定まっていない丸い目が嬉しそうに輝いて、ふにゃりと笑った紅い顔に不本意にも頬が緩みそうになる
「相澤くん、お迎え、うれしい・・!」
そう言って立ち上がろうとした身体は当然のようにふらりと揺れて
彼女の膝がかくん、と折れる寸前、手を伸ばし正面から抱き留めた
「結構飲んだのか」
「ぜーんぜん」
「めぐはワイン二本位じゃないかしら?」
にやついたその顔を睨みつけると香山さんが彼女の髪を撫で、気持ちよさそうにその目を細める
「なんでそんなに飲ませたんですか」
「あら、人聞きが悪いわね、めぐが自分で飲んだのよ?」
彼女とってもストレスが溜まってるみたい、旦那の愚痴が止まらなくてね、そう言って立ち上がった香山さんが俺の肩に手を乗せる
この人がこんな風に笑う時はいつも碌なことがない、無意識に腕に力が入った
「せっかく酔ってるんだもの、今日は本音を聞き出せるかもしれないわよ」
「大きなお世話です」
俺の言葉など全く届いていないが、ひらひらと手を振り去っていくその足取りはかなりしっかりとしたもので、散乱したままの大量の瓶缶を一瞥し俺はまた溜息をついた
「旦那の愚痴が止まらないらしいな」
「そうなの、相澤くん聞いてくれる!?」
俺を誰かと勘違いしているのかと思えば呼ばれた名前は間違ってはいなくて、まさに酔っ払いだな・・と呆れた声が零れる
思い悩んだ様子で顔を顰める姿に思わず小さく吹き出した
「ああ、本人で良ければ聞いてやる」
「優しいね・・!」
相澤くんは昔から優しくて大好き、そんな言葉を呟きながらベッドにペタリと座った彼女が俺の手を引く
それだけで充分誘われているような気がして、まもなく日を跨ぐであろう時計の針にちらりと目を遣った
「ねぇ相澤くん、膝に座ってもいい..?」
普段なら絶対に言わない台詞を吐く彼女をまだ見ていたい気持ちと、今すぐ組み敷いてしまいたい気持ちが鬩ぎ合う
向き合うような形で膝に乗った彼女の重さを感じると、とっくに答えは出ているのだが
「たくさん話したいことがあるの」
「話は手短にな」
何から話そう、、そう真剣に悩む顔を見ると早々に手を出すのはさすがに気が引けて
こりゃキツい時間になりそうだ、と柔らかな髪に触れながら溜息をついた