第25章 反撃は二人だけの夜に
凍えるような廊下を歩くと、一室から盛れる光と声
消灯時間はとっくに過ぎている
「めぐってホント面白いのねぇ〜!」
「あははは!香山さんには負けますって〜!」
「おい・・、なんだこれ」
泡を吹いて横たわる山田の前には、一つのグラスを囲むように種類の異なる酒が散乱している
その中に残るどす黒い色をした液体は俺たちにとっては特段珍しいモノでもないが、何度見ても慣れる物でもなくて
「・・香山さん、アンタまたやったんですね」
「マイクがね〜?どうしても私のスペシャルカクテルが飲みたいって言うから〜」
楽しそうにケラケラと笑う二人を横目に盛大な溜息をついた俺は、山田を肩に担ぎエレベーターを目指す
「コイツ部屋に置いてくるんで、大人しくしてて下さいよ」
良い酒が入ったと香山さんが皆を招集したその晩、当然のようにそれをパスした俺は部屋で山積みの仕事に手を付けて
ふと見上げた時計の針はすでに23時を指していた
寮の共用スペースで定期的に開かれるその宴会に、彼女は必ずと言っていいほど参加している
いや、俺以外はほぼ参加している、と言った方が正しいのかもしれない
いつもは一、二時間で帰ってくるはずのほろ酔い姿が見えず嫌な予感がした俺を迎えたのが、先ほどの光景だった
「ったく、お前も毎回毎回・・」
足を進める度に山田が「うっ」と呻く
まぁ残っていたのはあの面子だ、彼女に飲ませる訳にもいかず身体を張ってくれたのだろう
そう思うと、ちゃんとコイツを布団の上に置いてやる義務が俺にはある気もした
「相澤、悪ィ・・」
「いや、お前は別に悪くないだろ」
あの人の酒癖どうにかなんねェのか、そう呟いて部屋の明かりを付けると肩に置かれた手が思いっきり俺を掴んだ
「違う・・、わり、もう、出る・・」
「は!?」
大急ぎでトイレのドアを開けそこに山田の身体をぶん投げると、間一髪、だったように思う
事後処理を手厚く行うほどの感謝はしていないし、何よりまだ飲み続けている彼女が気掛かりで、便器に顔を近づける山田を確認すると勢いよくそのドアを閉めた
「おい、水ここ置いとくぞ」
「待ってェ・・、布団まで運んでくれんのかと・・」
冷蔵庫からペットボトルを取り出し扉の前に置く
確かにその予定だったな、と憐れな同僚のか細い声を背に部屋を後にした