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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第24章 口止め料は甘い香り



明日の夜は絶対に、そう決めた俺の意に反して
彼女を腕に抱く夜はそれから幾晩もやって来ない

一緒に寝て欲しい、とエリちゃんが彼女を部屋に呼ぶようになったからだ


あの晩、誘いを断られた理由もはっきりと分からないまま
今日も仕事を終え部屋に帰ると、食卓に用意された一人分の夕食と置き手紙

そしてあの香りだけが部屋に残されて

「これで何日目だよ・・」

同性ってのはある意味異性よりも厄介だな、
なんて子供相手に妬いている自分に殆呆れる

日に日に彼女の匂いが薄まっていく布団にも耐えられなくて
一人では滅多に飲まない酒を一缶煽るとそのままソファで眠りについた








「相澤くん、めぐと喧嘩でもしてるの?」

「いやぁ、ソレが分かんないんすよ!職場では普通に見えるし」


「おい、聞こえてるぞ」

山田の椅子を思い切り蹴ると、香山さんが呆れて溜息を漏らした

「随分ご無沙汰なのね〜、可哀想に」

「大きなお世話ですよ」

がっつきすぎて愛想尽かされちゃったのね、と
哀れみの欠片もない表情で笑うその顔に舌打ちをして職員室を出る


そんなに俺が不機嫌に見えるだろうか、

言い当てられるほど目立って変わった様子は無いはずなのに、同僚たちは明らかに俺に気を遣っていて





放課後の見回り、廊下の戸締りを確認しながら教室の前を通ると上鳴と芦戸の姿が視界に入る


お前ら何してる、早く帰れ

そう口を開きかけた俺の耳に二人の煩い声が届いた


「相澤先生と薬師先生、やーっぱ喧嘩してるよなぁ!」

思わぬ発言に面食らい立ち止まったものの、根拠の見えない言い方に苛立ちが募る


「ここ数日、朝も”無臭”だしなー」

「先生、寝袋で寝てたりして!」

「オレは匂いだけでも薬師先生の添い寝を感じたい・・」

無臭で喜んでるの峰田だけっしょ?そう言って机に片手をついた上鳴が項垂れると芦戸が腹を捩って笑った

「毎朝羨ましがる峰田の血涙も面白かったのにねぇ」



 “少し香りがキツいかなぁって思い始めて・・”




これが、あの晩の理由か

誰に指摘されたか知らないが、アイツの気にしそうな事だな
深く溜息を吐くと一気に肩の力が抜ける


「くだらないこと言ってないで早く帰れ」

予想通り聞こえた二人の悲鳴を背に、先程よりも軽くなった足を動かした
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