第24章 口止め料は甘い香り
「珍しいな、いつもの塗らないのか」
「へ!?あ、うん、」
もうすぐ日付が変わる頃、相澤くんがその存在を認識していたことに驚いて思わず変な声が出た
「昔から使ってんだろ、あれ」
「そうなんだけどね、、
少し香りがキツいかなぁって思い始めて・・」
パソコンの画面に落とされていた視線がこちらに向けられる
それだけで彼の言いたいことは充分に伝わって
「一度もそう思ったこと無いけどな」
想像していた通りの言葉に苦笑が漏れる
学生時代の貴方がこの香りを好きだと言っていたから
だからずっと使い続けている、なんて恥ずかしくて言えないけれど
香りが移っていることを話しても
「俺は別に構わない」とか言うんだろうな・・
ふらりと立ち上がった相澤くんがゆっくりと私に近づいて
「ん」
「あ、ありがとう・・」
上手な伝え方は無いかと考えていた私に差し出された、いつもの瓶を手に取る
今日はもう遅いから明日相談しよう、とその蓋を開けながら
今夜密着せずに眠る言い訳を考えていた
寒い寒いと毎晩擦り寄ってくるくせに
今日に限ってその気配は無くて
広いベッド、いつもより少しだけ離れた場所でこちらを向いたその姿に心が騒つく
「・・なぁ、いいか」
手を伸ばして彼女の髪を耳に掛けると、気まずそうにその目が泳いだ
「ごめん・・、今日は少し頭が痛くて・・、」
今まで一度だって断られたことの無かった俺の手は、既に彼女の寝巻きのボタンに触れていて
思わず間抜けな声が出てしまう
手繋いで寝てもいい?、
そう呟いた彼女が俺の手に指を絡めた
「わか、った」
快諾されるものと決め込んで、一足先に布団の中で絡めていた脚もやんわりと解かれる
それはまるで俺に触れるのを最小限に留めようとしているかのようで
一度も、こんなことは無かったのに
「おやすみ、相澤くん」
微笑んだ彼女は優しい口付けを落としてその目を閉じた
おい、寝るなよ
訳の分からないこの寂しさを埋めて欲しいのに
不安になる理由なんて何も無いでしょう、と
呆れて抱きしめて欲しいのに
夢の中では、逢えない
俺を置いて寝息を立て始めた穏やかなその寝顔に触れると、くすぐったそうに身を捩って
寝返りを打ちかけた身体を制するように、繋いだ手を引き寄せた