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◉拗らせろ初恋◉【ヒロアカ】

第24章 口止め料は甘い香り


部屋に入りソファに腰掛けると
彼女はきょろきょろと辺りを見渡して

「おやつの準備ができるまで、好きに探検して
 いいからね」

初めて訪れる空間への好奇心が彼女の目から伝わり、笑みが零れた


家具やインテリアに全く興味の無い相澤くんに甘えて、私は好き勝手にドライフラワーやハーブを幾つか部屋に飾っている

エリちゃんはその一つ一つに小さな鼻を近づけては、香りを楽しんでいるように見えた

「エリちゃんもお花が好き?」

「ふつうよりは、すき」

「ふふ、そっか」

ケーキと果物をお皿へ移しノンカフェインの紅茶を淹れると、可愛らしいその顔が輝く
初めて飲んだ紅茶には少し眉が寄ったけれど、ひと匙お砂糖を加えるとにっこりとその口が弧を描いた

「あのね、めぐさんはいつもいい匂いがしてね」

「そう、かな?」

「うん!お花みたいな、甘いにおい」

眠れない時に思い出すと安心するの、そう言った彼女が恥ずかしそうに笑う

「そんな嬉しいこと言われたの、初めて」



思い当たるのは、保湿用のアロマオイル
高校生の時から使っているそれは、自分で調合した香りが気に入っていて今も定期的に作っていた

「最初は、めぐさんからいい匂いがすると思ってたんだけど、」

もぐもぐとケーキを頬張りながら、赤い瞳が私を見つめる


「せんせいからも同じ匂いがして、」

だからきっとお部屋にひみつがあるんだって思ったの・・!

フォークを掲げて放たれたその言葉に、顔が熱くなるのを感じる



相澤くんから私と同じ香り、

それは間違いなく
私がお風呂上がりに塗っているそれのせいで


きっとベッドで、香りが移って—————



「エ、エリちゃん、!
 それ誰にも言わないでくれると嬉しいな・・」

ケーキの上の苺を彼女のお皿に移すと、不思議そうな目が私を見上げた

「くちどめ、りょう?」

「難しい言葉知ってるんだね・・」

「せんせいも、飴をくれるの」

相澤くんは一体何を口止めしているのだろう、と気になったけれど
それよりも先程の言葉が頭の中で木霊する

エリちゃんがそう感じているということは
同僚の先生方や生徒たちも同じように思っている可能性があるわけで

「貴重な情報、ありがとう・・」

そう伝えてその瓶を差し出すと
「これだぁ!」と満面の笑みでエリちゃんが飛び跳ねた
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