第22章 紛れもなくヒーローの
「・・相澤くんも浴衣がよかったなぁ」
「男が着たって仕方ないだろ」
オレの貸してやる!、そう息巻いていた山田の好意を一蹴した俺に、彼女は残念そうに呟いた
来年は着てね、当たり前のようにそう言った彼女ににやける口元を片手で隠す
不確定な約束は柄じゃないけれど、言われてみると嬉しいもんだな
「広いけど、全部回ろうねっ!」
楽しみにしていただけあって、飛び跳ねんばかりに彼女がはしゃいで
そう言う割には随分と歩き辛そうなの履いてきたな、と言おうとして
その類の発言はご法度だと山田が言っていた事を思い出した
「時間はあるから、そんなに焦るな」
いつもより更に狭いその歩幅に合わせゆっくりと歩く
彼女らしい落ち着いた色の浴衣が視界に入ると、それは祭りの灯りによく映えて
俺を見上げるたび揺れる髪飾りがどうしようもなく心を乱した
「俺が持つよ」と巾着を取り上げるふりをしてその姿を盗み見ると顔にじわりと熱が集まる
写真撮らせて、なんて言ったら間違いなく引かれるよな・・
「ありがとう」
照れ臭そうに礼を言って巾着を渡した彼女は遠慮がちに俺の手に指を絡めた
「・・その浴衣、すごく、」
何も言わないのはさすがにまずい、そう思い前を向いたまま精一杯の言葉を絞り出した瞬間、
バシッと後ろから肩を叩かれ、繋いでいた彼女の手が俺から離れた
「ショータ!お前も来てたんだな!」
焼きそばの上にフランクフルトと林檎飴を乗せた白雲が、人懐っこい笑顔でもぐもぐと口を動かしている
「お前、なんかすごいことになってるな・・」
「ふふ、美味しそう!」
だろ?そう言って林檎飴を彼女に差し出すと
下から上に、その姿をまじまじと見つめた
「めぐ、浴衣すっげェ似合ってる!
いつもより更に可愛いな!」
「嬉しい、ありがとう・・」
白雲の言葉に彼女が頬を染め、俺は眉間に皺を寄せた
「ショータもいつもの服、すげぇ似合ってる!」
「・・そりゃどうも」
はぁ、と大きな溜息をついたと同時に予想を裏切らない言葉が耳に届く
「よし、三人で回ろうぜ!」
先週の山田といい今日のコイツといい、
空気を読むってことを知らないのか・・
眉を下げた彼女は俺をちらりと見ると
仕方ないなぁ・・、そう言って赤い林檎を齧って笑った